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2019年3月17日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

産經新聞元論説委員長

産經新聞元論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 非常事態宣言に対する上下両院の相次ぐ無効決議などトランプ大統領と議会の対立は激化の一途だが、それとは裏腹に、大統領の弾劾は〝夢まぼろし〟と潰える気配が強まっている。

 大統領の政敵、下院を率いるナンシー・ペロシ議長(民主党、カリフォルニア州)が今月11日、ワシントン・ポスト紙のインタビューで、弾劾を支持しない考えを明らかにした。「国の分裂を避けたい」というのがその理由。元顧問弁護士による大統領疑惑の証言を受けて弾劾の動きが強まる中での民主党トップの発言だけに、訴追を求める声は勢いを失っていく可能性が強い。ペロシ議長はその一方で、トランプ氏は「大統領の資格がない」と」きびしく非難、スキャンダル追及を継続し、次期大統領選で落選に追い込む常道を模索しているようだ。

(~UserGI15633146/Gettyimages)

「圧倒的、超党派でなければ」

 ペロシ議長は「これまではっきり言ってこなかったが、私は弾劾を支持しない。弾劾は対立、国の分裂を引き起す」「誰もが反論できない圧倒的な何かがあり、超党派でないかぎり、それをすべきではない。そこまでする価値は彼(トランプ氏)にはない」と述べ、国論が分裂し、国民の団結が損なわれることへの警戒感を強くにじませた。

 1998年にクリントン大統領(民主党)が弾劾訴追されたケース(1999年無罪評決)に言及、「ニュート・ギングリッチ氏(共和党)が下院議長で、クリントン氏を訴追したが、不必要なことであり、国家にとって恐ろしいことだった」と振り返った。

 ペロシ氏は、クリントン弾劾だけでなく、1970年代のウォーターゲート事件でのニクソン大統領弾劾をめぐる動きも念頭に、党派、国民の間の対立が報復合戦に発展、新大統領が登場するたびに、弾劾騒ぎが繰り返されることへの警戒感を抱いているようだ。

〝モザイク国家〟亀裂回避を優先

 多くの民族、多くの人種、さまざまな宗教が渾然として織りなすモザイク国家の米国は、国民統合としての天皇をいただき内閣総理大臣を中心に強固な団結を誇る同質性の強い日本とは大きく異なる。政治的な弾劾によって大統領を引きずり降ろせば、激しい対立、遺恨を将来にわたってもたらす。

 思い起こすのは、クリントン弾劾無罪評決(1999年2月9日)の際の民主党長老、ロバート・バード元上院院内総務(故人)の言葉だ。以前、このサイトでも紹介したことがあるが、バード議員は「大統領が偽証をしたのは事実だと思う。しかし、国民の団結のためにあえて弾劾に反対する」と苦しい胸の内を語った。有罪だが職を追うことには反対―。ペロシ議長の胸中もバード氏のそれと相通じるものがあるのではないか。

民主党への〝ブーメラン効果〟も懸念

 トランプ弾劾を避けるのには政治的思惑もあろう。

 それをめぐる攻防が民主党への反発を強め、共和党の結束を促し、逆に大統領支持率を上昇させることを恐れ、それを避けようという狙いだ。

 クリントン弾劾の際は、訴追直前の98年11月の中間選挙で、事前の勝利予想に反して共和党が下院で4議席を失い、弾劾の急先鋒、ギングリッチ議長が議員辞職するという思わぬ結果となった。同年12月のクリントン訴追直後のNBCテレビの世論調査では、支持が68%から72%へと上昇した。40%前後の支持率をかこっている安倍晋三首相とは大きな違いだが、大統領を追い詰める共和党に民主党支持者や無党派が反発した結果と分析されている。今回、同様の現象が民主党に向けて起こる可能性は十分にあるとみるべきだろう。

 仮にトランプ弾劾に成功したとしても、それによって昇格するペンス副大統領は民主党にとって、トランプ氏よりはるかに手強い。真の保守主義者で、トランプ氏に比べると政治経験豊富な老練なペンス氏相手に、民主党が2020年の大統領選挙を戦うのはリスクをともなうという見方は少なくない。

 ペロシ氏ら民主党指導部は、20年の選挙でトランプ氏を破ることをめざし、今後も〝ロシア・ゲート〟、脱税疑惑、女性問題などスキャンダルを徹底的に攻撃する構えだ。それを意識してか,ペロシ議長はインタビューのなかで、「知的にも、倫理的にみても大統領の資質を欠く」とトランプ氏をこき下ろした。

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