日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2019年4月12日

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早川友久 (はやかわ・ともひさ)

李登輝 元台湾総統 秘書

1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。

 台湾が来年の総統選挙に向け、早くも政治の季節を迎えているが、与党民進党の内部が大混乱に陥っている。

 もともと民進党は党公認の候補者を4月17日に正式決定する予定だったが、なんと4月10日に開かれた党中央執行委員会で「党公認の総統候補は、立法委員(国会議員に相当)の候補者を決めた後の5月22日以降に正式決定する」と発表したのだ。

 これまで「候補者決定は一週間延期か」と憶測が報じられるなどしていたが、結果的に1ヶ月以上延期という衝撃的なニュースとなり、党内部の混乱を露呈することになった。

 本来であれば、李登輝が直面した「3つの危機」というテーマで、3回にわたってお読みいただく予定だったが、ここへ来て、民進党の公認候補者選びに際し、蔡英文総統のなりふり構わない姿勢によって党内が大混乱になっている状況が露呈してきたことから、急遽テーマを変更して書いた次第だ。

エースの出馬表明が民進党内に与えた衝撃

 台湾では、2000年に国民党から民進党へと、史上初の政権交代が実現して以来、就任した3人の総統はそれぞれ憲法で規定されている二期までを全うしてきた。

 そうした前例に鑑みれば、現職総統の蔡英文が次の総統選挙にも出馬する意欲を持つのは当然だろうし、事実、今年2月に行われたCNNのインタビューにも「現職の総統が国家のためにより多くのことをしたいと考えるのは自然だ」と再選への意欲をにじませる発言をしている。

 ところが、3月に頼清徳・前行政院長が総統選への出馬宣言をしたことで状況は一変する。頼氏は現在59歳で医師出身。もともとは台湾北部(現在の新北市万里区)の生まれだが、台南の医学部で学んだのが縁となり、台南に根を下ろして政界入り。市長在任中は、災害対応の手腕や市民の満足度調査の高さからネット上では「頼神」とも呼ばれる民進党のエースである。

民進党の次期総統選候補として出馬を表明した頼清徳・前行政院長(写真:ロイター/アフロ)

 端正な顔立ちや、台南市長時代の市政への評価はもとより、「私は台湾独立派だ」と立法院での答弁で明言するなど、自身の政治姿勢や主張を明確にする態度が概ね好感を持って迎えられていることから、国民的人気の高い政治家と言っても過言ではない。

 民進党を支持する有権者の声を聞くと、来年の総統選挙には蔡英文が出馬して二期目を全うし、その次に頼氏、という見方や期待を耳にすることが多かった。

 しかし、蔡政権の支持率があまりにも低迷していることや、両岸問題を含め、国際社会における台湾が持つ問題点を蔡英文が一向に打開できないことなどから、このままでは政権を手放すことになりかねないという危機感が頼氏に出馬を決断させたといわれている。

 党の「エース」参戦により、党内は大混乱に陥った。単純にいえば、再選を目指したい蔡英文と、このままでは政権を手放すどころか民進党の凋落に繋がると危機感を募らせた頼清徳の一騎打ちの様相を呈してしまったわけである。

 そこで党執行部は頼氏に対し「蔡英文・総統候補、頼清徳・副総統候補」で選挙戦を戦うことを提案した。それこそが党の安定と利益にもなるし、ひいては総統選の勝利を大きく引き寄せる唯一の手段だ、などと翻意を促したようだが、頼氏はそれを蹴ったと報じられている。頼氏としても時機を見極めたうえ、党を分裂させるとの批判覚悟で出馬しただけに、そうやすやすと翻意できないのは当然であろう。

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