使えない上司・使えない部下

2019年4月13日

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 今回は、障がい者の雇用に熱心に取り組むリゾートトラスト株式会社(愛知県名古屋市、従業員数7331人)の東京事務支援センター長、北沢健さんに話を伺った。

 リゾートトラストは会員制のホテル、レストラン、ゴルフ場、メディカル・シニア施設などを運営する。2006年から障がい者の雇用に本格的に始め、2019年3月現在の障がい者の従業員数は全国で214人。うち東京事務センターでは83人。知的が58人、精神が19人、身体と知的の合併が4人、身体が2人。10代から60代まで幅広いが、特に20~30代が多い。雇用形態はパート社員、準社員、正社員に区分し、現在はそれぞれ69人、11人、3人。2006年から現在までの13年間で103人採用し、退職者は20人と定着率は高い。業務は、ホテルのベッドメイキングや各部署のダイレクトメール、契約書の作成などと幅広い。

 現在、13人のサポートスタッフ(正社員)を配置し、その現場の責任者を北沢さんが務める。北沢さんは1997年に大学卒業後、社会福祉法人障害者就労支援センターすきっぷに入職。13年間勤務し、2009年に東京ジョブコーチ支援室主任統括コーディネーターに就任。2010 年にリゾートトラストに入社し、東京事業所支援センター長となる。

 2011年には障がい者雇用を評価され、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が主催する「障害者雇用職場改善好 事例」(厚生労働省後援)の優秀賞を受賞した。北沢さんにとっての「使えない上司、使えない部下」とは…。

東京事務支援センター

「使える障がい者って、どこにいるんですか?」

 私は生まれたときから、福祉に漬かってきました。高崎市(群馬県)の「国立コロニーのぞみの園」で生まれたのです。ここは障害者が治療や訓練を受けながら、幸せな生活が送れることを目的とした施設です。私の兄が知的障がい者でした。自閉症で、てんかんを持っていたこともあり、この施設で父、母、兄と私で暮らしていたのです。父は大正大学や東海大学、高崎健康福祉大学などで福祉を教えていました。母も、障がい者のための運動に長年関わってきました。

 私が福祉施設で働いていた頃から、障がい者雇用をする企業の担当者からよく聞かされた言葉があります。「福祉で働く支援者の障がい者雇用の考えは甘い。障がい者を育てようとしていない」です。私は、人を育てるという点では福祉と企業の間に大きな差はないと考えていましたから、この認識の差は何だろうと思ったことがありました。リゾートトラストでは福祉での経験を生かし、障がい者の雇用に取り組んできました。あらためて思いますが、福祉と企業の間に大きな差はないように感じます。むしろ、障がい者を育てるという意味では重なるものが多いように思えるのです。

 当社には、全国から様々な企業が見学に来ます。1回につき、15社程、約20人で、年間では200~300人になります。多くは、障がい者の法定雇用率が未達成の企業です。ハローワークから「法定雇用率を満たすように」と指導され、視察として来たようです。

 視察に来られた人事や総務担当者からは「使える障がい者が欲しい」といった言葉を聞きます。オブラートに包みながら、「うちにマッチングする障がい者がいない。どうしたらよいのでしょうか?」などと聞いてきます。「使える障がい者って、どこにいるんですか?」と踏み込んで話す方もいます。

 当社では障害の有無や程度にかかわらず、社員を評価するときに「あの人は使える、使えない」といった言葉は使いません。知的、精神、身体、発達という障害名だけで、その人を判断することもしません。むしろ、一人ひとりの違いを捉えます。たとえば、「〇〇さんにはこういう特性があり、同じ言葉を繰り返す傾向がある」といった見方です。

 個々の障がい者の実情や実態を正確に把握していないと、その人にふさわしい仕事をお願いできません。当社のサポートスタッフは「〇〇さんは~だから、こうしたほうがパフォーマンスは高くなる」と考えます。そのようにしないと、障がい者の社員も不満に思うはずです。自分が必要とされているという感覚を持つことが大切です。だからこそ、私たちはマッチングをしていくのです。

 サポートスタッフが外部機関や団体の研修から戻ってきて、「今日の研修を聞くと、うちの〇〇さんは自閉症の症状に近いみたい」と言う場合があります。障がい者の症状を教わり、障害名を先に捉えるようになっているのでしょうね。それも1つのアプローチでしょうが、当社ではその逆にしています。つまり、〇〇さんという人を先にしているのです。

 障害の種類や程度を正しく把握するのも大切ですが、その人が持つ障害の特性を知ると、どのような支援をすればよいのかが、具体的にわかってきます。心身の変化に早く気付くようにもなります。たとえば、体温のコントロールができない人もいるのです。寒い日に厚着して出社をしたのですが、室内に入り、汗をかいています。服を脱ぐことができないのでしょうね。脱ぐと涼しくなるという感覚がなく、厚着のままでいることがその方の意識では決まりになっているようです。これは知的障害の特性で、先の行動をなかなか予測できないのです。私たちは、そのようなことをある程度理解したうえで接するようにしています。

 私が特に重視していて、サポートスタッフにもよく言っているのは、障がい者の人たちを常にきちんと見ることです。今日の心身の状態や仕事の様子はいつもどおりなのか。違う場合は、どこがどのように違うのか。彼らがどう動いて、仕事が片付いていくかを考えることです。

 たとえば、100部のDM(ダイレクトメール)を作るのに、Aならば30分、Bは1時間で終わるとします。この場合、次のように考えてみます。「納期が迫っているから、今日はAにまかせてみよう。Bには当社の200種類程の仕事のうち、これを担当してもらおう。それで、こちらの仕事も納期に間に合わせよう」。このように障がい者の人に仕事をしてもらうのが、サポートスタッフの腕の見せどころです。仕事をまかせるだけではありません。その日によって、心身の状態や仕事の進み具合は違います。だからこそ、障害名だけでなく、その障がい者について観察してほしい。そして、障がい者である「〇〇さんの専門家」になってもらいたいのです。

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