解体 ロシア外交

2019年4月26日

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ウクライナ大統領となったウォロディミル・ゼレンスキー氏(写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナで新大統領が誕生した。コメディアンで俳優のウォロディミル・ゼレンスキー(41歳)である。彼は、選挙戦の最中から常に優勢を保ち、39人で争われた大統領選挙では30.2%の得票でトップの座を得たが、過半数に満たなかったことから、16.0%で2位だった現職ペトロ・ポロシェンコとの決選投票が行われる運びとなった。そして、4月21日の決選投票では、ゼレンスキーが73.23%の得票を獲得し、圧倒的な勝利を果たしたのだった(ただし、ロシアによるクリミア併合と親露派によるウクライナ東部の占領により、これらの選挙には有権者の約12%が参加できなかった)。

 ゼレンスキーは政治経験が全くない人物であるが、選挙戦の中で、記者会見を控えたり、ポロシェンコとの討論も最低限に抑えたりして、綻びを極力出さないようにしてきたのも勝因であろう。

ウクライナ問題で多大な犠牲を払ってきた両国

 このような新人大統領を緊張関係にあるロシアはどのように見ているのか。

 ウクライナにとって、最大の政治課題はウクライナ東部とクリミアの問題をロシアと議論し、解決することである。選挙前から、ロシアはポロシェンコとは交渉しないが、新大統領とは交渉の用意があると主張していた。また、ゼレンスキーの当選を受け、ロシアのドミトリ・メドヴェージェフ首相は歓迎の意を表し、ウクライナとロシアの関係修復のチャンスはあると語った。

 当然ながら、ゼレンスキーもウクライナ東部の問題解決を公約しており、ゼレンスキーはこれまでの、ドイツ、フランス、ロシア、ウクライナの四カ国による交渉である「ノルマンディー方式」に、英国、米国を加えて交渉を仕切り直す方針を提案している。またゼレンスキーは、東部の分離派の住民をウクライナに統合し(ポロシェンコとは違う路線である。ポロシェンコ時代、分離派地域の住民に年金や社会福祉は提供されなかった)、分離派の捕虜になったウクライナ兵や18年11月にロシアに拿捕され拘留され続けているウクライナ軍海兵の釈放も早期に行うと公約している。

 しかしロシアは、クリミア併合とウクライナ東部の混乱状態の保持のために、多大な犠牲を払ってきた。ロシアに有利な形でなければ、決して交渉は妥結しないであろう。他方で、犠牲を払ってきたのはウクライナも同じであり、ウクライナ国民もロシアへの譲歩には反対するはずだ。そのため、交渉での問題解決は極めて困難な状況であるのだが、そこにロシアはつけ込む可能性が極めて高いと考えられてきた。

ウクライナ東部住民、ロシア国籍の取得が容易に

 そして、ロシアの最初の揺さぶりの第一手がすでに切られた。4月24日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がある大統領令に署名したのだ。親露派分離主義勢力がその一部を実効支配しているウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州の住民が、極めて簡素な手続きでロシア国籍を取得できるようにするというものである。この意味は極めて大きく、ゼレンスキー政権に対する強烈な揺さぶりとなる。

 そもそも、ロシア国籍を取得するのは容易ではなく、通常は、ロシア人との婚姻やロシアにおける就労希望など、明確な理由が必要とされ、言語試験などのハードルもあり、その取得には数年かかるのが普通だ。実際、ウクライナ危機で多くのウクライナ人がロシアに避難し、すでにウクライナへの帰還を諦め、ロシア国籍の取得を目指している者も多いが、やはり実際の取得は容易ではないと聞いている。

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