ウクライナ 停戦成立でも真の和平は遠く
日本は更なるジレンマへ


廣瀬陽子 (ひろせ・ようこ)  慶應義塾大学総合政策学部教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

解体 ロシア外交

紛争、エネルギー、政治、経済など様々な外交カードを所持し、それを絶妙なタイミングで切るロシア。日本の隣人でありながらその内側がなかなか見えない大国に、不気味な印象さえ抱く。ロシアの外交、そしてその動きの背景を、ロシアと周辺国事情に詳しい著者が読み解く。

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9月5日、ウクライナ東部で続いていた親ロシア派とウクライナ政府の間に停戦が成立し、混乱終結の可能性が見えてきた。だが、停戦は平和や問題解決を意味するものではない。

 本稿では、停戦の意義と共に、継続する様々な不安要素や真の和平の難しさについても考えて行きたい。

形勢逆転、盛り返した親露派

 6月にウクライナ大統領に就任したペトロ・ポロシェンコは東部ウクライナでの戦闘に、当初から強気で攻勢を仕掛け、8月に入ってからは、政府軍がかなりの領域を奪還し、親露派を追い詰めているかに見えた。筆者がキエフで間近に見た8月24日の独立記念日の軍事パレード、ポロシェンコの演説も熱気に満ち、まさに勝利は目前だというような人々の興奮が伝わってきた。少なくとも、この時、政府軍が敗走することになるなど、誰も考えていなかっただろう。

軍事パレードの様子(撮影:筆者、以下同)

 ところが、8月28日頃からロシア軍の大隊が公然とウクライナに入り、東部の計10都市でウクライナ軍と直接戦闘を繰り広げたのだ。劣勢だった親露派はあっという間に盛り返し、さらに支配地域を拡大し、29日にはクライナ東南部、アゾフ海に近い要衝の港湾都市マリウポリを「ほぼ包囲した」と報じられた。

 マリウポリを掌握することは、ロシアにとって非常に大きな意義がある。何故なら、マウリポリは6月半ばにウクライナ軍が親露派から奪還してから、ウクライナ政府がドネツク州の暫定州都としていた地であるだけでなく、ロシアが3月に併合したクリミアに陸路で到達する回廊構築の足がかりにもなる地だからである。ロシアからすると飛び地となるクリミアには現在、本土と結ばれる橋の建設が進められている。

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「解体 ロシア外交」

著者

廣瀬陽子(ひろせ・ようこ)

慶應義塾大学総合政策学部教授

1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。

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