世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年5月30日

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 米国とイランとの緊張が、現在、高まっている。

 5月8日、ロウハニ大統領は、米国の一連の圧力強化策に対抗して、イラン核合意の一部(合意がイランに認める量を超える重水と低濃縮ウランの海外への移転、売却)の順守を60 日間止めること、60日の間にイランの原油、金融部門への支援が行われない場合、合意の定める水準を超えるウラン濃縮を再開することを明らかにした。これに対し、トランプ大統領は同日、イランの輸出の10%を占める鉄鋼、銅、アルミを新たな制裁の対象とすることを発表し、両国の緊張はさらに高まった。

(bazilfoto/Passakorn_14/PaulMichaelHughes/firc87/iStock)

 ロウハニ発言のうち前者は核合意の一部の順守の停止であるが、後者は濃縮の規制という核合意の根幹にかかわる問題であり、ロウハニは核合意からの離脱は望まないとは言っているものの、核合意の存続そのものを揺るがしかねない。ロウハニの強硬発言が、米国はもちろんのこと、欧州を念頭に置いていることは間違いない。

 イランは、米国が制裁を課した後も、EU諸国が引き続きイランの原油を輸入するなど、イランとの経済関係を続けることを期待した。これは苦境に立つイラン経済を支えるために不可欠である。EU諸国もイランと国際企業との原油取引を仲介する「特別目的事業体(SPV)」を設立するなどして、イラン経済を支えようとしてきた。しかし、多くの欧州企業は、米国の制裁を恐れイランから撤退し、EUはイランの期待に応えられないでいる。イラン経済は米国の制裁でインフレ率が 4%、若者の失業率が30%といわれ、本年の経済成長率はマイナス6%と予測されるなど、厳しい状況にある。ロウハニ大統領はイランの核合意からの撤退をちらつかせながら、EUに支援を迫ったものと見られる。

 しかし、EUが、イランが期待するような経済支援をする可能性は乏しい。

 そもそも、核合意のイランにとってのメリットは、米欧の当事国がそれまでの制裁を解除し、イラン原油を買い、イランに投資をし、イラン経済にテコ入れすることであった。イランの強硬派は核合意に反対したが、ロウハニ一派が経済的メリットを強調して核合意にこぎつけた経緯がある。その経済的メリットが無くなれば、強硬派を説得できなくなる。イラン核合意は危機に瀕する恐れがある。

 もしイランが高濃縮ウランの生産を再開すれば、米国、イスラエル、サウジが強く反発することは必至である。すでに軍事的緊張の高まっている米・イラン関係は、さらに対立が激化する恐れがある。何らかの誤算、さらには偶発で軍事的衝突になる可能性もある。

 恒久的な解決策は交渉の再開しかないと言う意見もあるが、現状では、交渉再開の気配は全く見られない。

 そんな中、5月12日、サウジ船籍2隻を含む4隻のタンカーが、世界の石油の4割が通過するホルムズ海峡近くアラブ首長国連邦(UAE)沖で破壊行為を受けた。ノルウェーの保険会社の報告書によると、イラン革命防衛隊(IRGC)が関与した疑いが強いと言う。イランはこれを否定した。2日後の5月14日、サウジ・アラビアでは、イランが支持するホーシ勢力のドローンにより石油施設が攻撃されたと伝えられた。5月15日には、米国務省が、イラク国内でイラン支援の武装勢力の脅威が高まったとして、イラクから非緊急公館職員を引き上げると発表した。これに先立ち、米国は対イラン制裁を強化し、空母とB52をペルシャ湾に派遣した。

 このように、中東での緊張が、米国とイランとの対立、ひいては軍事衝突に発展するかの様相が起こったが、幸い、トランプ大統領も、イランのハメネイ最高指導者も、お互い、戦争をする気はない、と発言した。

 中東での緊張が高まっていた5月16日、イランのザリフ外相が訪日し、河野外相と会談し、安倍総理にも表敬した。ブッシュ・小泉政権蜜月の時代にもイランは同様の対日接触を求めてきた。日本にとり中東の重要性は言うまでもない。

  
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