世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年6月7日

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 5月18日、オーストラリアでは、総選挙の投開票が行われた。開票結果は、スコット・モリソン首相が率いる与党連合(自由党及び国民党)が過半数の議席を獲得し勝利をおさめた。

(MuchMania/iStock)

 今回のオーストラリア総選挙に関しては、事前の世論調査で、野党の労働党が優勢で、政権を奪還すると予想されていた。それが、蓋を開けてみると、モリソン首相率いる自由党と国民党の与党連合が勝利した。この結果を受け、労働党のビル・ショーテン党首は党首を辞任し、モリソン首相は、「奇跡を信じ、奇跡が起きた。」と勝利演説をし、続投をすることになった。

 今回のオーストラリア総選挙に見られた世論調査の読み違いは、 2016年の米国大統領選挙でのトランプ氏の勝利や、同年の英国でのBrexit(EUからの離脱)についての国民投票でも起きている。2016年の米国大統領選挙の場合には、大手メディアによるトランプ批判が多く、トランプ支持を公にすることを恐れた「用心深いトランプ支持者」がいた。もちろん熱狂的なトランプ支持者も多数いたが、世論調査機関は、「用心深い」トランプ支持者を拾えきれなかったということのようである。同様なことが、2016年のEU離脱に関する英国の国民投票でも起きた。EUからの離脱のマイナス面を述べていたのがメディアの主流で、Brexitを推奨することなど憚られた。だから、世論調査に出て来ない声が、投票で表われたのであろう。

 では、今回のオーストラリアの総選挙の場合はどうだったのだろうか。野党労働党の支持率の方が与党連合よるも常に高く、閣僚達でさえも、落選の危機に晒され、必死で選挙運動を戦った。モリソン首相のみが、一人で各地の遊説に回っていたそうだ。モリソン首相は都市部の議席を減少させないように選挙戦略を展開したが、逆に、野党は、それらの地域で敗北した。モリソン首相は、勝利演説で、「勤勉で静かなオーストラリア人の勝利だ」と述べたが、おそらく、世論調査機関は、その「静かなオーストラリア人」を把握できなかったのであろう。世論調査機関は、これら「用心深い」あるいは「静かな」有権者をいかにして把握するか、調査の方法を再検討する必要があるのではないか。 

 オーストラリアでは、市場経済重視の政策で過去30年間成長を維持してきたと言う。それにしては、市場経済に介入する政策を掲げる労働党の支持が、なぜ選挙での勝利が予測されたほど強かったのか。また、選挙後早々に、与党連合に対し、より中道の政策を取るようにとの要求が出てくるのか、分からない。どのような有権者が与党連合の政策に不満を持ち、労働党を支持しているのか、よく分析する必要がある。 

 新モリソン政権の課題は、税制、環境など国内政策もあるが、外交も大きく浮かび上がって来るだろう。 先ず米国との関係である。オーストラリアとトランプ政権との関係は必ずしも順調ではなかった。トランプ政権はそれほど豪州を重視していないのではないかと思われる節がある。例えば、駐オーストラリア米国大使の任命は未だになされておらず空席のままである。一時は、ハリー・ハリス元米国インド太平洋軍司令官が任命されたが、結局ハリス海将は駐韓国の米国大使となった。

 米国のメディアはモリソン首相をトランプ大統領になぞらえることがある。それが正しいとは思えないが、モリソンとトランプが個人的関係を深め、米豪関係が好転する可能性がある。それは日本にとってのみならず、インド太平洋地域全体にとっても好ましいことである。日本の安倍総理がその仲介役にもなり得る。6月に開催されるG20大阪サミットでは、一番に米中サミットが注目されようが、米豪サミットの場も提供できれば良いだろう。

 オーストラリアにとって、おそらく対米関係以上に難しいのは、中国との関係だろう。中国は豪州の最大の貿易相手国であり、豪州の石炭、鉄鉱石の良いお得意様である。しかし最近、南シナ海問題、ファーウェイの5G排除の決定など、関係がぎくしゃくしている。 新モリソン政権がどのような対中政策を展開するか、日本を含むインド太平洋諸国の大きな関心事である。 日米が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」戦略は、オーストラリアも共有する。また、オーストラリアは、米国、英国、ニュージーランド及びカナダと共に、諜報機関の情報や設備を共同使用する協定を結んだ「Five Eyes」の1国でもある。その観点からは、5Gからファーウェイの機器を除外する方向で、米国と足並みを揃えるだろう。

 モリソン新政権になっても、引き続き、日米豪印のダイヤモンド構想は維持・強化されよう。

  
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