野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2019年6月15日

»著者プロフィール
閉じる

野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

写真:ロイター/アフロ

 米国や欧米の政府や議会が、香港政府が進める逃亡犯条例の改正に対する懸念を表明しているなか、日本政府は現時点まで沈黙を守っている。香港の学生運動活動家で来日中の政治組織「デモシスト」幹部のアグネス・チョウ(周庭)さんは連日、「日本政府や日本の政治家は香港についてもっと発言してほしい」と呼びかけている。だが、28日から開かれる20カ国・地域サミット(G20)で初めて議長国を務める日本政府にとって、習近平・中国国家主席と安倍晋三首相との首脳会談という重要イベントも控えており、香港情勢は難しい対応を突きつけている。

 12日夜に渋谷の駅前広場で行われた香港デモ支援の集会では、日本人と在日の香港人あわせて数千人が詰めかけ、中国への容疑者引き渡しを可能とする逃亡犯条例の改正阻止を訴えるとともに、日本政府の対応について物足りなさを指摘する声もあちこちから聞かれた。

香港政府に「圧力」をかける国際社会

 米国のナンシー・ペロシ下院議長は11日、香港の逃亡犯条例の改正問題について、香港の民衆によるデモを支持し、逃亡犯条例の改正に反対すると表明した。さらに、条例改正が可決された場合、米議会として、一国二制度における十分な自治が香港に与えられているかどうか再評価を行うと述べた。

 声明でペロシ下院議長は「平和的方式によって主権を守ろうとする香港人の行動に感動した」と述べてデモ隊を賞賛。「北京政府のコントロールする議会によって逃亡犯条例が審議されていることは、北京が躊躇なく法律を踏みにじり、香港の自由を圧殺しようとしていることだ」と香港、北京の両政府を厳しく批判したうえで、今後の展開次第によっては「香港人権および民主法案」を議会に提出する可能性があることを示した。

 このほか、香港の統治者であった英国政府とカナダ政府が、共同声明で逃亡犯条例の改正に対して懸念を表明したほか、欧州連合(EU)は香港が返還されて以降、初めて林鄭月娥(キャリー・ラム)香港行政長官への直接申し入れを行った。英国のハント外相は12日に改めて逃亡犯条例の改正審議の中止を求めるなど、国際社会の香港政府への圧力は日々高まっている。

 もともと欧米社会は人権に敏感で、近年香港で起きている活動家や政治家に対する逮捕・拘留・議員資格取り消しなどの動きに対して、懸念を深めていた。そして、今回、逃亡犯条例の改正に対して各国が素早く行動しているのは、手配犯などを中国に引き渡すことが可能になる改正案によって香港における司法の独立が危うくなれば、多くの駐在員を置いている香港の貿易・金融の中継センターとしての役割を見直す必要が生じ、対中ビジネスの利害関係にかなり深刻な影響を及ぼしかねないことも関係しているだろう。

関連記事

新着記事

»もっと見る