野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2019年6月20日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

写真:ロイター/アフロ

 世界を驚かせた香港の逃亡犯条例改正に反対する大規模デモについて記事を書いていると、どうしても隔靴掻痒のような感じが消えなかった。「容疑者を中国に移送できる」というのが改正の趣旨として語られているが、2014年の雨傘運動以後、若者らの活動家や民主派に対しては、さまざまな法律を駆使して政治参加を剥奪する手法を香港政府は確立しており、いったいどうして今このタイミングでこんな筋の悪い改正案を香港政府が持ち出したかがしっくりこない。

目的は、中国の金持ちを捕まえるため?

 香港を5月末に訪れていたのだが、活動家やジャーナリストに会った時、彼らが口々に「この改正案は実は中国の金持ちを捕まえるために、中国が香港政府に出させたものなんだ」と話していた。反対している人たちも、改正案の提出理由については、対香港人ではなく、対中国人がメインであると認識していたのだ。

 もちろん改正案の成立によって、実質的に香港で反中活動や民主化活動に参画した人が中国に移送されるリスクは生じる。だが、香港の現行法制度でも十分に打撃を与えられそうななか、彼らを大陸に引き渡す制度をいま整える必然性が少々疑問だった。

 中国は米中貿易戦争の煽りを受けて、人民元を外貨に換えて、海外に持ち出す資金逃避の動きが進んでおり、人民元は大きな下落圧力にさらされている。数年前から中国政府は外貨持ち出しを厳しく制限して海外企業を泣かせてきたが、その出口として人民元最大の海外オフショアセンターである香港が抜け穴となっていることはかねてから指摘されてきた。

 「金持ち」とは香港に資金を持って逃げてきた中国人のことで、彼らを国内の金融犯罪や脱税などを理由に中国に引き戻せる制度を早急に整備すべきだという認識を中国政府が持ったとしても不思議ではない。もし改正が実現していたら、資金を持ち出そうとする中国人に対し、一種の脅しになり、資金逃避の動きを止める効果を狙えるものになっただろう。

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