在留外国人の支援、共生社会の実現に向けた取り組みをしている出入国在留管理庁の初代長官に就任した佐々木聖子長官は日本記者クラブで17日に記者会見し、「今回の取り組みは特定の分野に限って外国人を受け入れるものだ。4月に施行され法律では、外国人を支援する仕組みが織り込まれている」と述べた。
受け入れ環境を整備するため「地方自治体に受け入れのための担当官を配置し、自治体との橋渡し役を設けた。また借金を抱えさせて日本に技能実習生などを送り出す悪質ブローカーをなくすために、送り出し国との間で2国間協定を締結してブローカーなくしたい」と指摘した。
遅れる就労環境作り
同管理庁は外国人労働者の拡大に伴い、法務省の外局として入国管理局を再編、格上げして今年の4月1日に発足した。2018年末の在留外国人数は273万1093人で前年より16万9245人、6.6%増加して過去最高となり、人手不足を補う外国人労働者の支援対策が課題となっている。
出入国管理法の改正に伴い、4月から新たな在留資格として「特定技能1号」と「同2号」が新設された。1号は相当程度の技能を持つ労働者で、建設、外食など人手不足が深刻な14業種で即戦力となる外国人を受け入れる制度で、多くは技能実習生からの移行になる。滞在期間は最長5年。2号は熟練した技能を持つ労働者で、1号から移行することが想定されているが、現在は建設と造船の2業種のみ認められ、滞在期間の制限はない。
外国人の日本での生活環境などをお世話する支援機関は7月12日現在、1218件の登録申請があり、このうち1000件ほどは登録になり、支援をするスタンバイができているという。入管庁で特に力を入れているのが、「外国人財の受け入れ・共生のための総合的対応策」で、佐々木長官は「受け入れ環境を整備するため126のメニューを用意して、総合的な取り組みを行っている」と強調する。
具体的には、全国各地に受け入れのための相談や手続きが1カ所でできるワンストップセンター(11言語対応)を全国に100か所設けるほか、外国人患者が安心して受診できる医療体制の整備、社会保険へ加入の促進、悪質な仲介業者の排除などで、これにより外国人が安心して就労できる環境を作ろうとしている。
しかし、地方では自治体にとって取り組む意欲に濃淡があり、まだセンターができていない自治体も多くあり、円滑な受け入れができるかどうか課題が残っている。
新しい資格で働けるのは介護、建築、造船など14分野で、政府は今後5年間で34万5000人を見込んでいる。新しい在留資格の取得では「いま国内にいる外国人約400人強が在留資格の申請をし、このうち30人ほどは新しい資格で働き始めている。さらに技能実習を終えて特定技能に移行するつなぎの期間にある人が約400人いる。手続きが慣れてくれば、新しい在留資格の取得は加速度的に進んでいく」と指摘した。
しかし、4月にスタートした割には資格取得者の数は少なく、産業界からは今度の在留資格制度が人手不足解消に効果を発揮するのか疑問視する声も出始めている。
建設ラッシュが続く首都圏の現場では、若手の日本人労働者が減っているため外国人の労働者がいないと回らなくなっているところもあり、新しい在留資格を取得した労働者が1日も早く現場に来て戦力になることが切望されている。
8カ国と協定
技能実習生を送り出している国との関係では「8カ国(フィリピン、カンボジア、ネパール、ミャンマー、モンゴル、ベトナム、スリランカ、インドネシア)の政府と覚書を締結している。いま、功を奏しているものでは、送り出し国の送り出し機関が実習生や留学生から多額の保証金などを取っていることが分かれば、相手国との協議の場で送り出し機関に与えている『マル適』マークを外してもらうなどのペナルティ措置を講じるようにしている。覚え書は交わしていないが、中国、タイとも実質的に同じ対応をすることで合意している」と話し、ペナルティを課す形で悪質なブローカーの介在をなくそうとしている。
過大な借金を背負わせて日本に技能実習生として送り出す悪質ブローカーの存在はたびたび報道されている。技能実習生の多くが借金の返済に追われる実態も報告されている。また、一目見ただけでは偽物と判別できないように偽造された在留資格カードも出回っており、出入国管理庁も神経をとがらせている。こうした偽造カードを実習生や留学生に持たせて違法に働かせて摘発されるケースもみられ、悪質ブローカーの存在は見えにくくなっている。留学生から聞いただけでは実態が分かりにくくなっており、警察も動員して違法な就労を取り締まる必要性も出てきている。