世界の記述

2019年8月19日

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水谷竹秀 (みずたに・たけひで)

ノンフィクションライター

1975年三重県桑名市生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業、カメラマンや新聞記者を経てフリーに。2011年『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』(集英社)で開高健ノンフィクション賞受賞。近著に『脱出老人』(小学館)。

身柄を拘束された国際逃亡犯が収容される入国管理局施設(写真・TAKEHIDE MIZUTANI)

 フィリピンではここ半年で、日本を出国した「大物」の国際逃亡犯の拘束が相次いでいる。7月上旬には、違法コピーした漫画を掲載した海賊版サイト「漫画村」の運営者、星野ロミ容疑者(27)が、昨年末には、積水ハウスが地面師グループに土地購入代金をだまし取られた事件の主犯格、カミンスカス操(みさお)容疑者(当時59)がそれぞれ、フィリピン入国管理局に身柄を拘束された。

フィリピン入国管理局に身柄を拘束された星野ロミ容疑者( 写真・フィリピン入国管理局)

 フィリピンでは毎年、日本から逃れた国際手配犯が拘束され、その数は多い年で4〜5人ほど。日本の捜査関係者によると、常時、日本人の逃亡犯10人ほどが潜伏しているとも言われる。

 日本で話題を集めた他の国際逃亡犯は、元グラビアアイドルの小向美奈子(34)だ。2011年1月、覚せい剤取締法違反(譲り受け)容疑で警視庁から逮捕状が出され、フィリピンへ高飛びして約1カ月潜伏していた。この間、各民放テレビ局は日本やバンコクから人員を多数送り込み、ホテルや飲食店への張り込みなど小向の足取りを連日徹底追跡した。

 六本木のクラブで男性客が撲殺された事件の主犯格、見立真一容疑者(40)は12年11月、インドネシアの首都ジャカルタからマニラ空港に到着したが、その後の足取りは7年近くが経過した現在も分かっていない。

 フィリピンにはなぜかくも邦人逃亡犯が巣くうのか。日本の捜査関係者は、その理由として、日本から距離が近く、英語が通用するといった要素に加え、こんな事情も指摘した。

 「裏社会の日本人ネットワークが構築され、警察を含め役人に袖の下が通用しやすい」

 裏社会のネットワークについては、1980年代から日本各地にフィリピンパブが急増したことが関係している。この結果、フィリピン人女性たちの訪日手続きを斡旋する日本人ブローカーが日比間を行き来し始め、これに伴って裏社会の人間の出入りも激しくなった。日本人男性が被害者となる保険金殺人事件や国際逃亡犯の拘束が相次ぎ発生し始めたのもその頃からで、フィリピンから日本へは拳銃や違法薬物の密輸が横行した。 

 役人への袖の下の裏には、従来から根付いている汚職体質がある。たとえば小向潜伏の約半年後、車両窃盗容疑で和歌山県警から手配されていた30代の日本人男性が、拘束を見逃す見返りに入国管理局から10万ペソ(約20万円)の賄賂を持ち掛けられた疑惑が発覚した。

 別の日本人男性の逃亡犯は、同局の捜査員に毎月一定額を渡し、地方に潜伏していた。ところが、資金が途絶えた時点で拘束された。

 2005年3月に興行ビザの発給基準が厳格化され、日本でフィリピンパブが減っているとはいえ、こうした日比間の歪な関係はいまだにその残滓をとどめている。それが国際逃亡犯を寄せ付ける温床になっているのだ。

 ドゥテルテ政権は現在、汚職撲滅を重要課題に掲げているが、実現にはまだ曲折が予想される。日本で犯罪に関与した逃亡犯にとって、フィリピンは依然として潜伏先の候補地足り得るのだ。

  
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