立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年8月20日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

 香港問題は解決の糸口が見えていない。境界付近の深圳地域に人民武装警察が集結しているとの報道を受け、中国が直接鎮圧に乗り出すのではないかとの観測も広がっている。拙稿『香港問題の本質とは?金融センターが国際政治の「捨て駒」になる道』に述べたように、「最後の一線」(香港当局だけで手に負えない状況が発生した場合)を超えない限り、中国側の強硬介入による直接鎮圧の可能性は非常に低い。それは中国は香港という「金の卵を産むニワトリ」を潰したくないからである。

(LeeYiuTung/gettyimages)

香港と「天安門」の根本的な違い

 まず、境界地帯に集結している人民武装警察の大部隊について、中国は積極的に報道している。なぜかというと、逆説的だが、それを実際に越境させ抗議活動の鎮圧に投入したくないから、見せつけているのである。中国流に「筋肉ショー」というが、軍事パレードに最先端武器を登場させるのと同じ原理で、敵を震撼させるためだ。「デモ参加者よ、早く家に帰れ、然もなければえらい目に遭うぞ」と。

 しかし、どうやら威嚇はあまり効いていないようだ。聡明な香港人がとっくに見抜いているかもしれない。「第2の天安門事件」といわれているが、香港は天安門とまったく異質的な状況におかれている。

 香港の場合、すでに多発デモの様相を呈しているように、抗議者は移動しながら「ゲリラ戦」を展開している。天安門広場のように抗議者を囲い込んで袋叩きにすることはなかなかできない。携帯電話すらない30年前と違っていまはスマホを誰もが持っている。SNS(交流サイト)を駆使すれば、鎮圧部隊の動静情報が瞬時に伝わる。つまり、武力鎮圧は必ずしも一定の「殺傷力」が保証されたものではないということだ。

 中国の武装警察あるいは軍人が越境して香港の市街地に進入し、デモ参加者にある程度の武力を行使したものの、「見せしめ」の効用・抑制力が瞬時に発揮できなければ、問題が深刻化する。いうならば、スポット的・ゲリラ戦的な武力鎮圧の長期化・泥沼化は現実的に不可能だ。

 もしそれが長期化するならば、現状維持で引き続き香港警察に任せたほうがよほど合理的ではないか(ただし、10月1日中国建国70周年記念日というタイムリミットがある)。抗議デモはすべてブルドーザーによって解決されるとは限らないのだ。

 今の香港は30年前の北京とまったく異なる。閉鎖的な社会主義国家の首都と開放的な国際金融センター、アジア屈指の国際都市。この鮮烈なコントラストが世界に与える衝撃は想像を絶する。さらに、多くの海外メディアや市民メディア(ソーシャルメディア)によって鎮圧現場の実況が世界中に生中継されるだけに、袋叩きに遭うのは北京政府にほかならない。

 なので、鎮圧されるほうよりも、鎮圧するほうが鎮圧を恐れているのだ。

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