2024年12月22日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2019年8月23日

 アリババの「芝麻信用(セサミクレジット)」などに代表されるように、日常における個人の消費行動が「信用スコア」のレイティング(等級分け)に利用される中国。レイティングが高ければ、様々なサービスを受けることができる特典が与えられることから、スコアを付けることが日常化している。

 ここにきて地方政府などが運用する「社会スコア」というものまで登場している。これには交通違反、ゴミの分別などがレイティング対象となり、スコアの悪い人はブラックリストに載せられたり、航空機などの公的サービスが利用できなかったりするなどのペナルティがある。

 個人情報によってレイティングされたり、個人の行動が監視カメラで監視されていたりするなど、日本人が聞くと「どうせ、中国は専制国家だから、プライバシーに無頓着で、監視されることにも慣れているんでしょ……」などと思ってしまいがちだ。しかし、実はそうではない。

(AlexLMX/gettyimages)

監視=幸福?

 そんな中国の実態を、中国経済論が専門の神戸大学経済学部教授・梶谷懐さんと、中国問題が専門のジャーナリスト・高口康太さんが現地取材を交えながら執筆したのが『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)だ。お二人に、「監視=幸福」という、一見、相反することがなぜ中国で成立しているのか? 聞いてみた。

 「2017年前後、NYTやWSJなど海外メディアがデジタル化に伴う中国の監視国家にぶりに警鐘を鳴らしはじめたのと同時に、「中国のシリコンバレー」として深圳に注目が集まりました。このころ、テクノロジーが中国社会をどう変えていくのかをまとめてみませんか? というオファーを編集者の方からいただきました。ただ、私一人では目まぐるしく変化する中国の現状をフォローできないので、月1ペースで中国に行かれている旧知の高口さんにお声がけしたのです」(梶谷さん)

 昨年9月に、北京で3週間の集中講義を持った梶谷さんは、興味深いベンチャー企業を高口さんと共に訪問した。

 「Megvii(メグビー)という、画像解析をAIで行っている会社です。訪問して驚いたのは、データ収集の元になる監視カメラの機能や設置状況が大っぴらに、むしろ自慢げに展示されていることです」(梶谷さん)

 どうしてそんなことができるのだろうか?

 「『ちゃんとプライバシー保護を考えていますよ』ということの表れでもあるのです。機械学習において使われる言葉ですが『特徴量』といって、画像など入力されたデータの特徴は端末側で数値化されます。メグビーがAIで解析するのは、個人の画像ではなく、数値化したデータになり、個人のプライバシーは守られるのです」(高口さん)

 メグビーの手法は日本の基準に照らしても問題はないという。日本の経済産業省のガイドライン「カメラ画像利活用ガイドブックver2.0」でも、「特徴量」抽出後に元の画像データを削除するという手続きを踏めば、監視カメラをリピート客などの分析に用いることを認めている。ガイドラインに合致しているとしても、日本ではまだ抵抗がある人が多いだろう。

 中国の特徴は単なる新技術の開発だけではなく、それがサービスとして「社会実装化」されていること。「中国の大学構内に入るときのチェックとして顔認証が導入されたところ、あっという間に普及しました。日本では考えられません」(梶谷さん)。

 こうした社会実装のスピードの速さが、市民が「ベネフィット(便益)」を感じる速さにもつながっている。

 実際、監視カメラの設置が普及したことによって、中国国内で社会問題化している「誘拐」が、即座に解決されるという事例も出ている。こうした結果、「社会治安に対する満足度」が向上しているという。


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