立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年8月30日

»著者プロフィール
著者
閉じる

立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 
(asiandelight/gettyimages)

中国はなぜ戦術を変えたのか?

 米中貿易戦争はある折り返し地点を経過したのである。その折り返し地点は8月だった。

 まず、8月までの経過を見てみると、中国は基本的に「引き伸ばし戦術」だった。米側との通商交渉は一進一退しながらも、正面衝突を避けてきた。その目的は来年(2020年)の米大統領選でトランプ氏が落選すれば、次の新大統領との再交渉に持ち込み、対中政策の緩和を引き出すというものだった。

 いわゆる「他力本願」の戦術でもあった。しかし、この「引き伸ばし戦術」が決定的な破綻を迎えたのは、中国が5月に合意内容を反故にしたときだった。昨年から交渉が始まって合意されたほとんどの内容を一旦白紙撤回した中国を前面に、トランプ氏は怒りを抑えきれず、交渉テーブルを蹴った。そこからトランプ氏は制裁の度合いを一気に高め、中国が望んでいた「再交渉」はついに実現できなかった。

 つまり「他力本願」ということで依存してきたトランプ氏は中国が望んでいた通りの行動を取らなかった。それは中国の企みが見破られてしまったからだ。バイデン氏が次期米大統領になれば、トランプ氏路線の撤回も可能になるという中国の企みがとっくにばれていた。

 ここまでくると、もう受身的な他力本願では無理だと中国は判断し、戦術の変更に踏み切る。能動的な出撃に姿勢が一変した。8月23日中国は、合計750億ドル相当の米国製品に追加関税を課すと発表した。大方の報道は、これがトランプ米大統領が発動を計画する対中関税第4弾に対する報復措置としていたが、それは間違った捉え方である。

 出撃ではあるが、報復ではない。逆に米国の報復を引き出すための出撃であった。案の定、中国の読みが当たった。トランプ氏はすぐに反応し、わずか数時間後に、すでに発動済みの2500億ドル分の追加税率を10月1日に25%から30%に、9月以降に発動する対中制裁関税「第4弾」の追加税率を10%から15%に引き上げると発表した。

 貿易戦争がこれで一気にエスカレートした。中国はもはや「引き伸ばし戦術」に固執しなくなった。いや、一転して攻撃型戦術に転じたのだった。なぜそうしたかというと、貿易戦争の激化という結果を引き出そうとしたのではないだろうか。非常に逆説的ではあるけれど。

 貿易戦争が激化すれば、米中の両方が傷付く。それは百も承知だ。それでも戦いをエスカレートさせようとするのはなぜか。答えは1つしかない。戦いの末、中国よりも米国のほうがより深刻な致命傷を負うだろうという読みがあったからだ。あるいはそうした「賭け」に出ざるを得なかったということではないだろうか。

関連記事

新着記事

»もっと見る