前向きに読み解く経済の裏側

2019年9月2日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 30年後は年金が2割減る、といった報道も散見されますが、そんな事はないから安心して良い、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

厚生労働省が年金の財政検証を発表

(takasuu/gettyimages)

 厚生労働省は先週、年金の財政検証を発表しました。5年前の前回が6月であったのに今回が8月だったので、「参院選の前に発表すると与党が困るような悪い内容なのではないか」という憶測が流れていたものです。

 内容的には5年前とあまり変わらないものでしたが、内容を誤解して、あるいは曲解して、政府を批判している人も多いので、「やはり選挙前に発表しなくて良かった」というのが与党の素直な感想かもしれませんね。

 政府を批判している人の論拠は「年金が30年で2割減る(目減りする)」というものです。しかし、これは報告書をよく読むとミスリーディングあるいは誤りであることがわかります。

 本題に入る前に、確認しておきたいのは、本稿で年金額という場合、標準的なサラリーマンと専業主婦が老後に受け取る二人合計の月額のことで、しかもインフレ分は調整した値だ、ということです。

 つまり、本稿で「年金が1割増える」と記してあれば、それは「年金の増え方がインフレ率より1割大きい」という意味です。「年金が1割しか増えないなら、それ以上にインフレになったら老後の生活が苦しくなってしまう」と心配する人がいるかもしれませんが、そうではないので安心して下さい。

2割減るのは所得代替率

 厚生労働省の資料には、所得代替率が現在の61.7%から2047年度には50.8%にまで低下する(標準的なケース)、と書いてあります。年金が2割減る(目減りする)といった報道がなされているのは、これを根拠にしているのだと思います。しかし、これは極めてミスリーディングです。

 所得代替率というのは、高齢者の年金と現役世代の所得の比率のことです。つまり、高齢者が現役にどれくらい割り負けているか、という数字です。したがって、この数字が2割減ることを、年金の減少、あるいは目減りと呼ぶべきではありません。

 厚生労働省の資料は、6つのケースについて試算していますが、標準的なケースⅢを見てみましょう。「現役の所得が大きく伸びるので、高齢者の年金も少し伸びるが、結果として高齢者の割り負け方が悪化する」ということがわかります。

 金額を見ると、年金は現在の22万円から2047年には24万円に約1割増えています。年金だけで生活する人にとっては、生活レベルが今より約1割上がるのです。

 厚生労働省の前提が楽観的すぎるようにも思えるので、やや悲観的なケースⅤを見てみると、2043年の年金は20.7万円まで減ってしまいますが、それでも2割も減るわけではありません。

 こうしたことを考えると、年金が2割減る(目減りする)という表現は、どう考えてもミスリーディングですし、誤報と呼ぶべきレベルだと思います。

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