2024年5月2日(木)

Wedge REPORT

2012年3月16日

手厚い対策でも減らない不調者

 システムインテグレータのガリバー的存在のNTTデータ。本社社員だけで1万人を超え、官公庁、金融、産業界などの基幹システムの構築・運用を担う巨大企業だ。同社の1カ月以上の休職者数は「業界平均の2%と比べ当社は1.3%程度です。メンタル不調者の根絶を目指したいのですが、これをやれば絶対に解決する方策は現時点ではみつかっていません。手探りで当社に見合う適切な方法を探っているのが現状です」と人事部健康推進室の村井敏行課長は語る。

 健康推進室には産業医が3人常駐する。さらに専門医が8人、うち3人が精神科。保健師は15人、臨床心理士は8人という規模。社内病院といってもよい陣容をもつ。ただ、投薬は行わないので、メンタル不調者は実際には医院で治療を受けることになる。

 同社の最近の傾向は、うつの若年化が進んでいることだという。とくに入社3年目の女性の不調者が増えている。これは育成期間が2年で終わり、現場のリーダーとして第一線で責任を持たされるのが影響しているとのこと。下請け業者を抱える現場では、年配者へも指示を出さねばならず、どうチームをまとめるか、重いストレスが一気にのしかかる。上司がサポートするしかないが、上司も自分の仕事で手一杯という。

 過重労働を防ぐため月80時間を超えると面接、45時間を超えると疲労蓄積度チェックを実施する。さらに出社後に立ち上げたPCと電源オフまでの時間を自動記録し、社員が申告した勤務時間との差も調べる念の入れ方だ。正しい労働時間を把握し、過少申告をさせないための手段である。社内で開発したストレスチェックを全社員に実施させ、少しでもうつ病の兆候がみられると、早めに対処するなど、うつ予備軍への対策も怠らない。全社員にあの手この手で意識づけをし、過重労働を防ぎ、カウンセリング体制も整えている。それが業界平均を下回る結果となっているが、それでも不調者は減らない。

 資金的余裕がある巨大企業だからこそできる重厚な対策であるが、うつ病を発生させない業務体制の見直しなどにまで問題が進めば、人事セクション主導だけでは限界が出てしまう。

 一方、うつ発症者は出ていないが、事前に対策に踏み込む企業もある。千葉県市川市に本社を置くサンセットコーポレイションは、ゲームソフト、DVDの買い取り・販売などを手掛ける創業20年のベンチャー企業。社員数は約170人で平均年齢は30歳。千葉、東京、埼玉に33店舗をもつ。「現在は休職者もメンタル不調者もいませんが、将来はわかりません。トップへ提案するのが当社の流儀で、メンタル対策の必要性を説き了解を得て09年10月から開始しました」というのは人事部の合澤東奈さん。

 実施しているのは、外部委託のストレスチェックと健康診断時のメンタル検査、さらに毎月、全社員に送るお知らせなど。これである程度の社員のストレス度合を把握し、あとはこまめに店舗を回り、店長・社員との面談を実施する。自ら産業カウンセラーの資格をとり、ノウハウも外部から学び実践に生かしている。

 「店舗運営は少人数です。そこでメンタル不調者が出ると深刻な事態にもなりかねませんので、社員の状況把握を重視しています」と、うつ予防はコミュニケーションからと考え実施しているという。

 中小企業には小回りのよさがある。トップ次第で柔軟かつスピーディーに全社的な対策を打てるのが強みでもある。それでもメンタル対策に踏み込めないのは費用対効果がはっきりしないからだろう、しかし、本気度があれば効果は確実にみえてくる。


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