WEDGE REPORT

2012年4月20日

»著者プロフィール
閉じる

佐々木正明 (ささき・まさあき)

産経新聞リオデジャネイロ支局長

1971年岩手県生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒業。産経新聞社に入社、神戸総局、横浜総局、大阪本社社会部等を経て2014年10月までモスクワ支局長。著書に『シー・シェパードの正体』(扶桑社新書)、『恐怖の環境テロリスト』(新潮新書)

 環境テロリストとは、人間による動物の殺害や利益追求のために自然を破壊する行為を絶対に許さない。そして、彼らは動植物に依存する社会に警鐘を与えようと、人類のあらゆる営みに攻撃を加える。

 2010年9月、世界最大のドキュメンタリー放送局ディスカバリー・チャンネルの本社で起こった人質立てこもり事件。同局に対し「地球を汚す人間の数が多すぎる。人間の生殖活動を抑制するような番組を作れ」と要求した韓国系米国人のジェームス・ジェイ・リー(43)の言葉には、21世紀の流行り病である環境テロの原理主義思想がにじんでいた。

「人間こそが排除すべき敵」という過激思想

 環境テロリストの思想基盤には、全ての生き物が人間と同等の価値を有する「生物中心主義」の概念が溶け込んでいる。ノルウェーの哲学者、アルネ・ネス(1912-2009)が提唱した「ディープ・エコロジー」は、緑の地球を維持するために、生物中心主義を徹底させ、人間は自らの利益だけでなくこの世の全ての生命存在のことを考えて行動を取らなくてはならないと訴えた。

 その概念は後世の環境保護運動に大きな影響を与えた。そして、過激活動家たちによって「人間こそが排除すべき敵なのだ」とする危険な教義へと転化する思想基盤に利用された。彼らにすれば、「人類はがん細胞のようにどんどん増殖し、緑の地球を破滅させる最も大きな病巣」(米国の環境保護団体PeTA創設者、イングリット・ニューカークの言葉)なのだという。

 日本の捕鯨に苛烈な妨害を加えるシー・シェパード代表のポール・ワトソンの言葉にも、ディープ・エコロジーの強い影響をうかがわせる表現がある。

 「人類は地球上に重荷を負わせる子供の数を自発的に減らすよう奨励する必要がある。食習慣を変え、生活習慣を変え、物質的欲求を捨てなくてはならない。石油への依存も終わらせなくてはいけない」

 ワトソンはこう語り、支持者たちに人間の欲求が地球にもたらす害を訴えた。

仲間集めに路上で1ドルをばら撒く

 武装立てこもり犯のリーと一緒に部屋を借りていた同居人は「彼はとっても礼儀正しく静かな人だった」と語った。折り目正しい性格で家賃の滞納は一度もない。家の周りにすみついた野良猫たちにえさをあげる優しい性格をも持ち合わせていた。しかし、同居人はリーが「工場」と名付けていた部屋に足を踏み入れたことはなかった。事件解決後、家宅捜索に訪れた警察官はこの部屋から爆破装置を見つけた。

 「まさか、彼があんな事件を起こしたなんて」

 同居人は言葉を失った。

 地元メデイアは立てこもり事件の前兆となるリーの振る舞いを伝えた。2008年に「地球を救え」とするディスカバリー・チャンネルへの抗議活動を単独で始めたリーは、同局がまともに自分の主張を扱ってくれないことを悟ると、今度は、仲間を集めようとして、路上で1ドル紙幣をばらまく行動に出た。

 「お金は無意味だ。ごみみたいなものだ」

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る