彼女の仕事人生は順風満帆ではなかった。事務職員(キユーピー社内では“地域職”と言う)になったのは、実は就職活動がうまくいかなかったからだった。
「実は30社くらい落ちているんです。食品メーカーで商品開発をしたいと思い、飲料、調味料などを志望していました。でも、全部落ちてキユーピーに事務職として拾ってもらったんですよ」
ただし、彼女は自分の強みが「食品」でこそ発揮されることを、ぼんやりとだが、直感的に意識していた。
学生時代のバイトで見つけた“自分の強み”
「学生時代の食に関することばかり選んでバイトしていたんです。ファミレスでは、ウエイトレスさんでなく、コックさんとしてバイトしていました。だから就職活動の時、私は“食”が好きなんだな、と意識はしていたんです。
でも、それがうまく表現できず、自己PRでは、探検サークルの仲間と無人島に行って2週間過ごした話などをしていました。キユーピーが採用してくれたのは、きっと、自分で穴を掘ってトイレを作ったとか、根性面が評価されたんだと思います」
6年間、名刺はもらえなかった。対外的な仕事などなかったからだ。
「“開発会議”とか、カッコいい名前の会議にも私は出られませんでした」
結婚して退職、という道を選んでもよかった。むしろ、それが当たり前の道でもあったはずだ。だが彼女はキユーピーにとどまった。なぜなのか。
目の前の仕事は、明日につながっている
「ぼんやりとですが、自分の強みを意識できていたからです。まず、食品が好きなこと。あと、主婦や、一人暮らしの男性がこういう状況にあるからこういう商品がヒットしたんだ、とか市場を分析することが好きだったんです。だから、正直に言うと“このままでいいのかな?”と思ったこともありましたが、仕事を続けられたんだと思います」
就職活動は時に残酷な結果をもたらす。デキる能力があり、その仕事をしている人たちが目の前にいるにもかかわらず、私にはさせてもらえない。それがどれだけ辛かっただろう。だが、彼女はこの仕事が明日につながっていることを意識し、辞めなかった、というわけだ。
「だから私、小さなことがうれしかった。名刺をもらえた時もうれしかったし、事務職としてですが開発に携わって商品を出せた時は、その商品を抱きしめて眠りたいと思うほどでしたよ」
≪POINT≫
◆今の仕事を続けていいか悩んだ時は?
就職しても、思うような仕事ができず「ここにいても意味がない」と思う時は誰にでもあるはずだ。そんな時は、渡辺氏が回想する通り「自分の強みを理解すること」が有効な判断材料になるだろう。このまま歩めば自分の強みが活かせる仕事ができるのであれば、続ければいい。ただ辛い作業をしているのであれば、別の道を探るのも手だ。
「でも、私もぼんやり理解していただけですよ。『具のソース』がヒットした後に受けた取材で、よく“就職活動の時、やりたいことを直感的につかめていたんですね”と言われました。今振り返るとその通りなんですが、当時は自信があったわけでなく、だからこそ人にもなかなか説明できなかったんです」(渡辺氏)
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