パリへ、宇宙へ
町工場を建て直した3代目


Wedge編集部

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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昨年末、パリ・ルーブル美術館からほど近い場所に、神奈川県茅ヶ崎市の町工場がリサーチ拠点を設けた。開設したのは、微細な切削加工を得意とする由紀精密。売上2.5億円(2012年度予測)、従業員は20人足らずと聞けば「そんな町工場がパリに進出するなんて、よっぽど凄い技術を持っているんだろう」と考えてしまうが、数年前まで「何が自社の強みか分かりませんでした」と、常務の大坪正人氏は振り返る。

親の窮地を救うため、家業を継いだ

 大坪氏は、由紀精密の3代目。東京大学大学院工学系研究科を修了後、00年に金型製造ベンチャーで名を馳せたインクスに入社。開発責任者も任され仕事が楽しくて仕方がない最中だった06年、急遽実家に戻った。

 公衆電話の金属部品など、量産品を手がけてきた由紀精密の売上は、ピークだったバブル期の3分の1となっていた。家業を継ぐつもりはなかったが、「中小企業は借金をすれば個人補償。このままではまずい」と、親の窮地を救うためだった。

大坪氏が誇る由紀精密の検査室
(撮影:編集部)

 戻ってみたものの、新たな仕事を作るためにどこを攻めれば良いのか分からなかった。社長である父親に「うちの強みって何?」と訊けば「他と比べて価格は安くもない、他ができない仕事はうちでもできない……」という答えが返ってきた。大坪氏は、取引先にアンケートをしてみることにした。すると、ほとんどの取引先が「品質の良さ」を高く評価してくれていた。

 一般的な電気機器などに使われる部品は品質以上に、コストが重視される。「品質」を最も評価してくれる所はどこか─。大坪氏は、航空宇宙産業に狙いを定めた。そんなとき、由紀精密のウェブサイトを見た購買担当者から一通のメールが舞い込んできた。航空機関連の部品メーカーから、旅客機部品の量産の依頼だった。数カ月の試行錯誤の末、受注に結びつけることができた。

 受注が成功したのは、加工技術そのものもさることながら、「品質管理」能力が発揮されたからだ。由紀精密では、毎月数百におよぶ部品を出荷するが、不良品はゼロだという。これこそ、「60年かけて組織の動きとして作ってきた蓄積」(大坪氏)であり、取引先が高く評価してくれる「品質」が担保される源泉だった。この受注以降、航空機関連の売上は順調に増えることになった。

 実は、パリ進出は航空機関連の仕事を広げるための布石。エアバス社のお膝元であるフランスは、GDPのなかで航空宇宙産業の占める割合が最も高い国だ。大坪氏は4年後には現地工場の設立を目指している。

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