ファイナンシャル・タイムズ5月23日付で、英経済界の大御所、Martin Jacombが大胆なユーロ解体論を展開しています。
すなわち、ユーロ圏存続のための必死の努力が続けられる中、1)有能な若い人々がユーロ圏の弱小国から出て行き、2)ユーロが信頼できず、預金はドイツの銀行に預けた方が安全だとの考えが増え、ユーロ圏の貧しい国々の国営銀行から預金が失われる事態が起きている。どちらも直ちに対処しないと、後戻りできない状態になる。特に後者は深刻だ。
一旦銀行が取り付け騒ぎを起こしたら、対処しようとしてももう遅い。従って、健全な銀行に預けられたユーロは、経済的に強い国の銀行に預けられたユーロと同等の価値を持つことが保証されるよう、今すぐ行動すべきだ。
もっとも、ドイツが、無制限にユーロの面倒を見ることはできないと思うのは無理もなく、ユーロの価値を保証するのは極めて難しい。
そこで、考えられる一つの方法は、「ユーロ救済」のチャンスが失われたことを受け入れ、ユーロ圏17カ国が即刻各国通貨への復帰を決断することだ。事前通告があってはならない。通貨崩壊に際しては、先物投機的行動がとられないようにしなければならないことは経験が示している。最も重要なのは、各国通貨復帰という単純明快な決定について、ユーロ圏17カ国の政府が秘密裏に合意し、予告なく発表することだ。
この決定により、ユーロ圏諸国に課されていた全ての義務と権利は、新たな各国通貨が負う義務と権利へと合法的に移行し、ユーロは、各国が欧州中央銀行に持っている資本比率で、各国通貨に分配されることになる。また、移行は、紙幣、銀行預金、ローンだけでなく、国家債務を含む債券や商業契約上の諸権利にも適用される。
新しい国家紙幣を入手できるまで、ユーロ紙幣は使われ続けるし、ユーロ紙幣が出回っている間はユーロ紙幣を廃止することはできないが、大量のユーロ紙幣を抱えているところは、新通貨に変えるために銀行に預金すればよい。
この計画の強みは、多少の混乱はあっても、確実性があることだ。新しいドイツマルクは需要があり、新しいドラクマも、値引きは求められるだろうが、買い手や売り手が非合理的に行動すると考えるべき理由はなく、すぐに妥当なレートに落ち着くだろう。競争力をつけるためには通貨の多様性はどのみち必要であり、信用はすぐに再形成されるだろう、と言っています。
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ジェイコムは、会長、副会長、CEOとして英プルデンシャル、バークレイズ、カナリー・ウォーフシティを渡り歩き、また、社外役員としてリオ・ティント、マークス・アンド・スペンサー、さらにはイングランド銀行にまで関わってきた人物で、サッチャー時代の規制緩和が現出させた「経営者階級」の代表格と言えます。