2024年5月18日(土)

使えない上司・使えない部下

2020年8月28日

部下との間に「気持ちの見える関係」を

加藤幸吉さん

 これは、障害者雇用に熱心なことで知られる大手外食チェーン店でのことです。その会社の障害者雇用管理本部の代表(S氏)とは何回か直接お話をさせていただいたことがあります。障害者雇用について明確な考えを持っていて、大変に立派な方と感じていました。

 ある日、店舗で働く卒業生B(当時18歳、男性)が「スマホを使い、店舗の従業員に不適切な写真を送った」と私のところへ連絡が入りました。Bは、生真面目とも言える生徒で、在学中の様子からは考えにくい行為でした。

 私が急いで店舗に伺い、店長から話を聞くと、他の従業員からの聞き取りから、彼以外考えられず、本人も認めているとのことでした。私があらためて本人、保護者から話を聞いたところ、「急にいろいろ、店の人から話をされて、よくわからず返事をしてしまった」とのことでした。保護者も、自分の子どもが疑われたことにショックと憤りを感じていました。私が再度、店長と話をするうちに、彼以外の可能性も出てきました。

 そこで私が面識のあった、社長を退かれ、顧問として障害者雇用管理本部の代表をされていたS氏に相談をしました。早速、店舗に駆けつけていただけました。事件の内容と経過を説明し、店長、本人、保護者、私などそれぞれの立場からの話が終わると、S氏は一言「店長!彼(B)はそのようなことをしていないよ」とおっしゃいました。

 その後、社長自ら障害者雇用の思いや、ご自身の経験をいろいろと語ります。店長以下、みなが感動し、涙ぐんでいました。誰を咎めることもなく、このようなトラブルを防ぐために、今後の解決法まで考えてくれたのです。Bには「本当に申し訳なかった。これからもがんばってほしい、この件はこれでおしまい。お店にあるものは何でも食べていいよ」と、そこから一同和やかな会食となりました。Bは、その後も同じ店舗で働いています。

 障害者雇用は、トップの方の姿勢や熱意が大切なのだとあらためて思いました。振り返ると、卒業生を雇ってくれた会社には感謝することが多いのです。こちらが気付かされることもたくさんありました。

 ある会社の採用担当の方から「就職したら、学校と違い、会社では叱りますよ」と言われたことがあります。今、学校では厳しさを経験する機会が減っているように感じます。会社では上司が以前のように叱ることは少ないにしろ、ある程度は厳しく言うことが必要な場面もあると思います。その点で、学校と会社のギャップが広がっているよう感じます。

 厳しいだけでは人はおそらくついていかないでしょうが、なんとか育て上げたいといった思いから来る厳しさは障害者、健常者の区別なく伝わります。そして上司の方は成長を引き出し、部下が「あなたは、本当に役に立っているんだよ」と言われる存在にしてほしいと願っています。

  
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