漁業 「環境の変化」という魔法の呪文
ウナギ激減に無自覚な加害者・日本人

あたかも被害者であるような誤解


片野 歩 (かたの・あゆむ)  水産会社 海外担当

東京生まれ。早稲田大学卒。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。1990年より、最前線で北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20年以上、毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。著書に『魚はどこに消えた?』(ウェッジ)、『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)、「ノルウェーの水産資源管理改革」(八田達夫・髙田眞著『日本の農林水産業』<日本経済新聞出版社>所収)。

日本の漁業は崖っぷち

成長する世界の水産業の中で、取り残されてしまっている日本。潜在力はありながらも、なぜ「もうかる」仕組みが実現できないのか。海外の事例をヒントに、解決策を探る。

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失敗の本質が正しく伝わっていないと、事態は改善どころか悪化に向かってしまうものです。主因と、単なる一つの要因に過ぎないことが入れ替わってしまうと、効果のない対処法が施され、一向によくならないことがあります。

 経済問題を例に挙げれば、本当は別の原因で業績が悪くなっているのに、サブプライム問題、欧州経済危機、超円高等、様々な「魔法の呪文」を唱えることで、問題の本質が曖昧になってしまい、想定外の出来事が起こってしまったのだから「仕方がない」ものとして片付けられてしまうというようなことです。

 確かに経済要因の影響はあるのです。しかし、それは決して主因ではなく、別に要因があることが多いのです。これらの想定外の経済問題が起こる前の話であれば、もちろん理由にはできません。しかしいったん想定外の問題が発生し、魔法の呪文が唱え続けられると主因と他の要因が入れ替わってしまい、何が何だかわからないうちに、正しい対処法が出来ず状況が悪化していくことがあるのです。日本の水産業は、その典型的な例なのかも知れません。

ウナギは幻の魚となってしまうのか

 土用の丑の日を前後して、今年もウナギが話題に上りました。稚魚の価格が1キロ200万円(!)を超えて暴騰、ウナギの高騰で苦労する専門店、マダガスカルやインドネシア等からの新たな輸入先の発掘……。「ウナギの稚魚不漁」で消費者を含めて多くの人々が影響を受け、次はどこから輸入するのかということに期待が集まるような報道となりました。

 このままでは、来年以降はさらに稚魚の数が減り、ウナギは幻の魚となっていくことでしょう。稚魚が減った最大の理由は環境の変化等ではなく、乱獲が主因です。それがあたかも、環境変化にも原因があったのではないかと「魔法の呪文」を唱えることで原因が曖昧にされてしまい、加害者である我々日本人があたかも被害者であるかのような、大きな誤解を与えることになってしまっているのです。

 EUは、ウナギの資源減少を懸念して2007年に輸出規制を行い、米国も規制の準備に入っているといわれています。「ウナギ取引、米が規制検討、対象拡大なら日本に影響」という記事を見て、それなら規制される前に「ウナギを食べておこう」とするような考えがあるとしたら、それは如何なものかと思います。なぜ規制がかかるのか、真剣に考えていただきたいところです。

 欧米が規制をかける理由は、資源保護・持続性に関する考え以外の何ものでもありません。EUのウナギ資源は、規制実施後もまだ回復の兆しが出ていません。あまりに乱獲が進んでしまうと、資源の回復までに10年単位のスパンで長い年月がかかってしまうのです。それでも、将来のことを考えて規制を実施する国々と、問題を先送りして何の判断も下さない国とでは、結果の違いは言うまでもありません。

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「日本の漁業は崖っぷち」

著者

片野 歩(かたの・あゆむ)

水産会社 海外担当

東京生まれ。早稲田大学卒。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。1990年より、最前線で北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20年以上、毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。著書に『魚はどこに消えた?』(ウェッジ)、『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)、「ノルウェーの水産資源管理改革」(八田達夫・髙田眞著『日本の農林水産業』<日本経済新聞出版社>所収)。

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