夏は経済ジャーナリストにとって受難の季節だ。お盆休みが近づくにつれ企業や行政の動きは停滞し、ニュースが急激に少なくなる「夏枯れ」の時期にあたるからだ。新聞社やテレビ局のデスク、ディレクターは普段以上に頭をつかって経済ニュースをひねり出す、あるいは仕立てる工夫が求められる。ところが、今年は例年と比べて少し様子が違っていた。電機大手シャープの経営をめぐる報道が7月から8月にかけて熱を帯び、本社のある大阪を中心に盛り上がったからだ。
経済報道のなかでも企業の経営危機に関する報道は、記者にとって最大の腕の見せ所である。当然、企業側は情報を出したがらない。各社の記者はさまざまなソースにあたって情報を組み立てていく。それまで積み上げてきた人脈など経験値も問われることになる。シャープほどの大企業の危機ともなれば、デスクやキャップからの要求も激しさを増す。担当記者には「他社に抜かれるな」と相当のプレッシャーがかかっているはずだ。
その結果、報道内容はメディアによって微妙に異なることが多い。最近は複数の新聞を読み比べている人も多くないだろうが、私のように長く経済報道に携わってきた人間は、どうしても各紙の「違い」に着目してしまう。各社の報道姿勢や現場の状況がそこに表れていると考えるからだ。
読売と日経 売却対象に違い
業績が悪化したシャープは台湾の電子機器の受託生産で世界最大手の鴻海(ホンハイ)精密工業から出資をうけ、経営再建を目指しているが、その資本・業務提携の効果が見られず、業績が回復していない。8月初めに2013年3月期の連結決算の業績予想を2500億円の最終赤字と予想し、5000人規模のリストラを発表したあたりから株価が急落した。
この頃からシャープ報道は過熱する。大きく事態が動いたのは8月中旬だ。まず16日に読売新聞が「シャープ、主力工場売却へ 太陽電池拠点、市ヶ谷 幕張のビルも」と朝刊一面に報じる。朝日新聞などその日の夕刊段階から追いかけたメディアもあった。日本経済新聞は音無しの構えか、とみていたところ、翌日17日に朝刊で「シャープ、主要事業売却、複写機や空調機器、亀山工場分離も検討」と報じた。一面に大きく見出しが踊る派手な報道で、NHKは早朝からほぼ同内容で追いかけていた。