2024年5月20日(月)

Wedge REPORT

2021年1月27日

 石炭火力の発電方式はいくつかあるが、経産省がフェードアウトの基準としてきたSCとUSCのCO2排出量の差について、東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資し、国内最大の発電会社であるJERA(ジェラ)・坂充貴経営企画本部調査部長は「プラントごとに熱効率が違うため一概には言えないが、SCは1㌔ワット時あたりCO2排出量が800㌘程度で、USCは750~760㌘程度」と話す。わずか50㌘程度の差であり、電力業界の関係者が「非効率石炭火力が『魔女』にされた」と感じたことも頷ける。

 「30年度までに」と期限を明示したことについても、取材に応じた電力業界の関係者たちからは異口同音に疑問の声が上がった。一般的に発電所の寿命は「30~50年程度」(JERA・坂調査部長)だという。石炭火力検討WGで示されたデータによれば、大手電力会社が所有するSC以下の発電所の多くは1990年代以前に建設されている。だとすれば、今後2030年前後にSC以下の発電所は自然と退出していくことになるだろう。

 北陸電力の広報担当者は「一律に期限を区切った規制ではなく、発電所の寿命や供給力確保の観点など、事業者の実情に応じた弾力的な運用を望みたい」と話す。また、日本鉄鋼連盟電力委員会で委員長も務める日本製鉄・神田剛治エネルギー技術部長は「自主的な低炭素化の実行を促進できるような財政面などの支援や、産業向けの次世代高効率機の開発を早期化する取り組みへの支援を期待している」と述べた。

 この方針による電力会社の経営への影響について、前出の橘川教授は「影響が大きい会社と小さい会社に二分される」と語る。

 大手電力会社別にSC以下の石炭火力の発電量が、火力発電以外も含めた総発電量に占める割合を比較すると、多くの電力会社が20%以上となる(下表参照)。一方、JERAや既に非効率石炭火力を所有していない関西電力への影響は限定的であることが分かる。

(出所)経済産業省第1回石炭火力検討WG資料を基にウェッジ作成
(注1)2019年度実績値
(注2)共同出資している共同火力等の出力は出資率に応じて案分 写真を拡大

 小誌の取材に対し、中国電力は経営への影響について、「回答は差し控える」と明言を避けた。だが、SC以下の石炭火力を、仮に30年度までに退出させることとなれば、総発電量に占めるSC以下の石炭火力発電比率が高い同社にとって、その影響は小さくないだろう。

 石炭火力を所有する企業は、電力会社に限らない。製品の製造過程で大量の電力を必要とする鉄鋼メーカーや化学メーカーなどは、自家発電用の石炭火力を所有している。前出の日本製鉄・神田部長は「30年度で一律にSC以下の石炭火力を停廃止した場合、収益への影響と停電時などにおける保安電源の機能喪失による当社事業への影響が避けられず、極めて大きな経営への影響がある」と危機感を募らせる。

 地元との関係も発電事業者の頭を悩ませる問題の一つだ。

 20年9月の第3回石炭火力検討WGにおいて、電源開発・加藤英彰経営企画部長は地元への影響について次のように述べている。「雇用面では1地点当たり200~500人を超える人員が働いている。定期的に行われる設備点検などの時期には1000人を超える人が従事することとなる。経済面では、地域への発注が1地点当たり年間およそ10億~30億円発生しており、地元自治体に支払う地方税として1地点当たり2億~8億円を納めている」。


 事実、JERAに対しても「地元自治体や住民の方からは問い合わせがきている」(坂調査部長)という。


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