去る9月、日本政府の尖閣国有化を受け、中国国内で史上最大規模の反日デモが起きた。デモが暴動化し、日系企業の工場や商業施設での破壊・略奪行為が公然と行われた。それと同時に、中国政府公認の下で国内の日本製品不買運動が起こったり、日産やホンダなどの日系自動車メーカーの中国市場の販売台数が大幅に激減したとの報道もある。また、中国からの観光客の激減、突如の団体旅行キャンセルによって日本全国の温泉街や旅館、そして航空各社が悲鳴を上げている。
国有化1カ月前には予想もできなかったこのような深刻な事態は、いわば「チャイナリスク」の恐ろしい実態をわれわれの目の前に晒しだした。それは、多くの日本企業が「チャイナリスク」について真剣に考えるようになるきっかけも作ったのではないだろうか。
このコラムでもここで一度、問題点を整理しながら、いわゆる「チャイナリスク」とは何かについて考えてみようと思う。
尖閣だけにとどまらない「日中関係のリスク」
日本企業にとってのチャイナリスクの1つは、やはり「日中関係のリスク」であろう。
日中国交正常化以来の40年間、日中関係はさまざまな問題点を抱えながらも何とか小康状態を保ち続け、その中で日本企業の対中ビジネスは拡大の一途を辿ってきた。しかし今後、まさに「尖閣問題」というパンドラの箱が開けられたことによって、日中関係の平穏無事の時代はもはや過去のものとなったではないかと思う。
実際、中国政府はすでに「領土問題は半歩たりとも譲歩しない」と宣言しており、今後は巡視船による尖閣海域への侵入を常態化させるなど、長期戦も辞さない構えである。もちろん日本側としても国有化の撤回や実効支配の後退などの妥協はできるわけもなく、「尖閣」を巡る日中間の攻防が、出口の見えない持久戦に入っていく見通しだ。そしてその中で、2010年秋の尖閣漁船衝突事件のような突発的な事件の発生や双方の小競り合いから生じてくる対立のエスカレートは、いつでも起こる可能性がある。つまり今後は、日中関係にはいつでも緊迫した状況になるような危険性が潜んでいることになる。何か起きるたびに、日本企業は深刻なリスクに直面することになるだろう。
つまり「尖閣問題」の1つを取ってみても、日本企業の対中ビジネスにとって、日中関係の悪化から発するところのチャイナリスクは、「ひょっとしたら起きるかもしれない」という程度の偶発的なものではなく、むしろいずれ必ず起きるような必然性のあるものへと変質しているのである。