2024年5月21日(火)

ニュースから学ぶ人口学

2021年11月8日

 メダル獲得数(実数)の第1位は米国、2位中国、3位日本、4位英国、5位はロシアだった。金銀銅の価値の違いを考慮してウエイト付けしたメダル獲得ポイント(金3点、銀2点、銅1点)で見ると、第1位米国、2位中国、3位ロシア、4位英国、日本は5位と順位は入れ替わる。

 メダルを獲得した90カ国について、ウエイト付けしたポイントによる順位とそれぞれの人口規模、国内総生産(GDP):経済力、一人あたりGDP:豊かさの順位との相関関係を検討してみた(いずれも2020年の国際通貨基金(IMF)データ)。

 相関分析の結果は、いずれも有意(1%水準)であった。相関の強さはGDP、人口、一人あたりGDPの順である。ただしメダル獲得ポイント上位30カ国に絞ると、GDPと人口規模との相関関係はより強くなったが、反対に一人あたりGDPでは相関が認められなかった。豊かで小さな国もあれば、貧しくても大きな国がある。いろいろあるが、多くのメダルを獲得したのは、GDPで示される経済力と人口の大きな国に集中する傾向が明らかだ。

 

 日本の人口が減少し続けて経済力も衰退するなら、オリンピックで活躍する場面が減少するかもしれない。すでに日本では、過疎地域や大都市圏を問わず、児童・生徒数が減少して学校の統廃合が進められている。野球やサッカーなどでは人数が足りなくてチームが組めないケースも少なくない。

 経済学者のE・ボズラップは人口が多く、人口圧力が高いほど技術発展しやすいことを実証している。またR. D. リーは、人口圧力が高すぎても良くないが、人口が減少して人口圧力が低下すると、高度な技術を維持することができなくなる可能性を示唆している。

 人口減少はたかがオリンピック・メダル、では済まない。今後は、大学生の人数も大幅に減少する。アスリートのみならず、将来の科学技術を支える人材の減少は深刻である。

衆院選で見えなかった人口減少適応策

 このたびの衆院選では各党が競うように所得の分配を約束し、子育て支援や教育について公約を示した。しかし出産、児童手当、保育、教育に関してはほとんどの政党が横並びで手当の拡大や教育の無償化を訴えるにとどまっている。これが本当に若者に響き、結婚や出産を促すことにつながるのだろうか。

 筆者は男女格差の解消、ジェンダー平等こそが出生率上昇に結びついていると考えているが、この問題を取り上げたのはわずか3党に限られていた。政権与党を含む有力政党はいずれも、このことに触れていない(NHK選挙WEBによる)。

 (ありえないことだが)いますぐに合計特殊出生率が人口を維持できる水準(人口置換水準=2.07)に達したとしても、人口減少が止まって減りも増えもしない状態(静止人口)が実現されるまでには何十年もかかる。したがって人口政策の課題は、減少を少しでも早く止めることを目指した人口減少抑制政策と並んで、21世紀を通じて避けることができない減少に適応して、いかに安定した社会を実現するかという人口減少適応政策の両面から取り組むことが求められる。

 各党の公約には、人口の面から持続可能な社会をどのように実現する道筋が明示されていないことが気がかりである。その場しのぎの経済対策として現金給付を行うだけではなく、「新しい資本主義」の先にある日本の将来を実現させるための政策論議を期待する。

   
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