2024年5月21日(火)

CHANGE CHINA

2022年2月22日

 彼女は中国の作家、野渡と交際している。彼も国家政権転覆扇動罪の容疑で11年に3カ月間拘束された経験があり、海外には自由に行くことができない。互いに行き来ができず、会えないのに愛を貫こうとする2人を友人たちは心配していた。

 野渡は今、獄中にいる鄒氏にエールを送り続けている。「苦しみに立ち向かう君の決意には価値がある」「十字架より重いだろうが、身を挺して自由のために立ち上がる勇気を持って!」。

 中秋節には清代の詩人、納蘭性徳が亡き妻を偲んで作った詩「蝶恋花・辛苦最怜天上月(花を恋する蝶・空の月を憐れんで)」の一部を引用し、こんな手紙を書いた。

 「成都の月明かりは私を照らしている。月明かりは刑務所にいる君にも届いているかい。月のように明るくなれれば、氷や雪の冷たさを追いやって君を温められる。永遠の月は青春、愛、生命が消えても変わらない。でも、君の香港はもう変わってしまったね」

法廷で身を挺して訴えた「真実」

 昨年9月、香港警察の国家安全処は、支聯会を「外国の代理人」であり、「香港国家安全維持法(国安法)」違反の疑いがあるとし、設立以降の全メンバーおよび職員の資料、収支、関わりのあった組織との活動、連絡内容などを提出するよう求めた。4月に有罪判決を受け、服役中だった主席の李卓人、副主席の何俊仁(アルバート・ホー)らに代わり、鄒氏が表に立ち、頑として抵抗して資料の提出を拒否した。

 国家安全処が指定する資料提出期限日、鄒氏は夜を徹してネットで支援者と語り続けた。翌朝、メディアが待ち構える中、彼女は連行された。

 1月の裁判で、鄒氏は天安門事件の犠牲者の家族の証言を読み上げた。戦車が容赦なく人間を轢いていく様を、弾丸に貫かれた死体が北京の病院の床一面に並べられる情景を、感極まって息をするのが辛くなりながらも伝えた。彼女の感情は法廷で傍聴する人たちにも伝播し、すすり泣く声が法廷を包んだ。

 「裁判長、私の嘆願ではなく、彼らの証言こそ、法廷で聞かれるべきなのです」。鄒氏がこう話すと、法廷内には彼女を称える声と拍手が沸き起こった。すぐさま裁判官は警察官に指示し、声を上げた者の身分証番号を控えさせた。こうして、香港の権力機関は市民に恐怖感を抱かせ、感情を素直に表現する権利さえ奪っている。

 鄒氏は上訴しなかった。「私は言うべきことは言い、残すべき記録は残した。役人に(無罪や減刑を)乞う必要なんてない。私たちには自分で真相を見出し、判断する能力がある。この自信が家父長的な権威統治から脱却するための第一歩になる」。

 この数年間で、香港ではどれだけの数の政治犯が生まれたのだろうか。中国でも弁護士や活動家、その家族が不当な圧力を受け続けている。鄒氏は法律を武器に、政治的・社会的弱者を支援してきた。彼女は、台湾への密航を試み、中国海警局に海上で拘束された香港の活動家ら12人の法律支援も行っていた。彼女の力を必要とする人は大勢いるというのに……。国安法の裁判もこれからだ。全部で刑期がどのくらいになるのか。彼女を待ち受ける試練を考えると気が遠くなりそうだが、彼女は決して怯まず、獄中からも支援者を通じて発信し続けている。

 彼女は言う。「言論の自由を守る唯一の方法は話し続けること」「文字には生命力がある。法律にも、権威にも決して定義できないものがある」。

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■魚も漁師も消えゆく日本 復活の方法はこれしかない
PART1 魚が減った本当の理由 日本の漁業 こうすれば復活できる
片野 歩(水産会社社員)​
 Column 1  その通説は正しいのか? 漁業のギモンにお答えします
PART2 ノルウェーだって苦しかった 資源管理成功で水産大国に
ヨハン・クアルハイム(ノルウェー水産物審議会(NSC) 日本・韓国ディレクター)
 Column 2   原始時代から変わらぬ日本の釣り 科学的なルール作りを 
茂木陽一(プロ釣り師)
PART3 70年ぶりに改正された漁業法 水産改革を骨抜きにするな 編集部
PART4 「海は俺たちのもの」 漁師の本音と資源管理という難題
鈴木智彦(フリーライター)
PART5 行き詰まる魚の多国間管理 日本は襟元正して〝旗振り役〟を
真田康弘(早稲田大学地域・地域間研究機構客員主任研究員・研究院客員准教授)
PART6 「もったいない」を好機に変え、日本の魚食文化を守れ!
島村菜津(ノンフィクション作家)
 Column 3  YouTuber『魚屋の森さん』が挑む水産業のファンづくり 
森 朝奈(寿商店 常務取締役)
 Opinion  この改革、本気でやるしかない  編集部

   
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Wedge 2022年3月号より
魚も漁師も消えゆく日本
魚も漁師も消えゆく日本

四方を海に囲まれ、好漁場にも恵まれた日本。かつては、世界に冠たる水産大国だった。しかし日本の食卓を彩った魚は不漁が相次いでいる。魚の資源量が減少し続けているからだ。2020年12月、70年ぶりに漁業法が改正され、日本の漁業は「持続可能」を目指すべく舵を切ったかに見える。だが、日本の海が抱える問題は多い。突破口はあるのか


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