「海の見える化」に
全力を注ぐべきだ
複雑に絡みあうさまざまな課題が水産改革の行く手を阻む。ボトルネックとなるのは正しい政策の立案・実行・検証に欠かせない「データ不足」だ。
元水産庁次長で現在は水産業の各セクターへのアドバイスを行うよろず水産相談室の宮原正典代表は「日本の漁業はデータもそれを分析・評価する科学者も圧倒的に不足している。水産庁に限らず関係の研究機関の総力を集中すべきだ。不漁に対する対症療法的な補助金に終始せず、長期的に現在の資源の危機にどう対処すべきか、本質的に重要なデータの収集や検討に予算や人的資源をもっと配分すべきである。漁業者の懸念に応える説得力のあるデータや対策を提供できないと、漁業者と資源の回復に取り組むことはできない。『海の見える化』に全力を注がなければいけない」と指摘する。
資源管理や評価にも適切な予算を投じ、人材の確保や育成を加速させていくべきではないか? 前出の水産庁藤原課長補佐は「北海道での赤潮や軽石による被害への対応など、本来使いたいところに予算が使えていないという現状は確かにある。予算のパイが増えればいいのだが……」と嘆く。
宮原氏は「海洋環境は目まぐるしく変化しており、資源管理に古いデータで取り組んでも水産資源は回復しないかもしれない。日本の海が危機的な状況にあることを自覚し、国を挙げて対処していかなければ間に合わない」と警鐘を鳴らす。
大きく舵を切った水産改革も足元の動きは鈍いといっても過言ではない。日本の漁業を本気で復活させるには大改革が必要だがいつまで錨を下ろし続けたままでいるのか──。荒波に立ち向かう覚悟が日本の漁業の浮沈を左右する。不徹底な改革は許されない。
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四方を海に囲まれ、好漁場にも恵まれた日本。かつては、世界に冠たる水産大国だった。しかし日本の食卓を彩った魚は不漁が相次いでいる。魚の資源量が減少し続けているからだ。2020年12月、70年ぶりに漁業法が改正され、日本の漁業は「持続可能」を目指すべく舵を切ったかに見える。だが、日本の海が抱える問題は多い。突破口はあるのか。
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