前回に続き、深刻化する職場うつの問題と対応策を探っていきたい。オリンパスソフト社長時代に大胆なメンタルヘルス対策を行い、不調者の激減と生産性の向上を達成した実績をもつ天野メンタルコンサルティングの天野常彦代表に、職場うつに対する考え方と対処法などを聞いた。
天野常彦(あまの・つねひこ)
外資系コンピュータメーカー、大手システムインテグレーター、外資系コンサルティングファームを経て2006年オリンパスソフトウェアテクノロジー社長。2012年10月天野メンタルコンサルティングを設立、代表に就任。産業保健法務研究研修センター専務理事を兼務する。著書に「メンタルサポートが会社を変えた!」(共著・創元社)など。
メンタル対応は利益に結びつく
―― うつ病になる要因は、多様な見方があり何が正しい考え方なのか断定できません。人の心の問題を解消させることは、一つの答えだけではない。それだけに難しさがあると思います。うつ蔓延の背景をどのようにとらえていますか。
天野:メンタルヘルスのとらえ方が、関係者の立場で大きく異なっていることが問題です。たとえば専門医は保険診療の適用時間が限定的で、さらに患者さんを診る人数についても病院側からプレッシャーがかかりますから、一人の患者に対する診療時間はどうしても限られ、形式的な診療にならざるを得ません。また、産業医は雇用者が企業であるため、企業業績にブレーキをかけるような職場への指示は出しにくい雰囲気があります。上司・同僚は、成果主義や個人主義的な傾向に押し流されて、助け合う配慮を失いかけています。経営者自身も株主から求められる利益を優先せざるを得ず、社員をコストとしてみる経営者が増えています。これが現状でありメンタルヘルス対策が推進しない大きな理由の一つです。問題を取り払い、それぞれが連携し合いながらメンタルヘルスに向き合う体制を構築しなければ、不調者の数は減らないでしょう。国を含め、それぞれの立場の人々が問題を提議し、連携する場を設けるところから始めるべきだと考えています。
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メンタルヘルス不調の原因関連図をつくりました。これを見ていただくと1層は、学術的に言われていることで、脳の情報伝達メカニズムの不調や認知のひずみであり、それを作り出すのが2層にある環境や職場などの過度なストレスです。さらに3層として幅広い社会情勢があります。連携しなければいけないのは、この3つの層に関連する立場の人たちです。