2024年5月21日(火)

WEDGE REPORT

2022年3月15日

 朝鮮半島の近代史を概観すると概ねこのような流れになるが、ここで1つの疑問が生じる。日韓併合の際に朝鮮半島に存在した国家は、李氏朝鮮の流れを汲む「大韓帝国」であるが、現在の「大韓民国」は大韓帝国が復活した、あるいは大韓帝国の正統性を継承した国家なのであろうか。

 その答えは、否である。韓国の憲法は制定以来9回にわたり改定されているが、国の成り立ちについては前文で一貫して「3・1運動」を基点としており、現行憲法では「3・1運動で建立された大韓民国臨時政府の法統」を継承しているとしている。この憲法前文から、韓国は国家の正統性を大韓帝国ではなく、3・1運動から生まれた臨時政府に置いていることが分かるだろう。

 3・1運動とは、韓国併合から9年後の1919年3月1日、朝鮮民族の代表33人がソウル中心部で「独立宣言」を読み上げ、独立を求める朝鮮人が大規模なデモを行い、それが全国に波及した出来事を指す。日本の朝鮮総督府はこの事件を契機に、現役軍人が総督として朝鮮を統治する武断政治から、一定の融和を図る文化政治に舵を切った。

 そして、同年4月には米国で独立運動を進めていた李承晩(イ・スンマン/初代韓国大統領)が上海に大韓民国臨時政府を樹立し、金九(キム・グ)が首班となるや昭和天皇の暗殺を狙った桜田門事件(1932年)や日本政府・軍高官を殺害した上海天長節爆弾事件(同年)などの過激な独立運動を推し進めた。ここで一言書き加えれば、この臨時政府は当時から国家承認されておらず、中国・国民党の統制化にあった。あくまでも韓国の理念の中だけに存在する「国家」であると理解していいただきたい。

 保守も進歩も変わらない構造的反日

 筆者はここで臨時政府や金九の行為を一方的に非難している訳ではない。伊藤博文が日本では明治の元勲である一方で、韓国では植民地支配の元凶とされるのと同じく、金九や安重根(アン・ジュングン)は韓国では独立運動の英雄であるが、日本ではテロリストとされていることは、それぞれの立場からは当然の評価である。

 では、なぜこのようなことを書いたのか。思い起こして欲しいことは、韓国が憲法前文で国家の正統性をこの臨時政府に置いているということだ。つまり、韓国が大韓民国である限りにおいて、明治期からの敗戦までの日本は打倒すべき〝敵国〟だったのであり、その国家を継承した現在の日本は未来永劫に道徳的な責任を追求すべき相手なのである。

 ゆえに韓国の政権が保守であれ進歩であれ、この基本的な価値観は変わらない。保守と進歩で違いがあるとすれば、彼らの正義の力点の違いだけだといえる。その点、経済的な利益や安全保障環境を重視する保守は現実を前にして少々のことは目を瞑ったが、人権や平等などの理念を優先する進歩は観念的な理想を追及したといえば理解が容易であろう。

 尹錫悦氏が率いる韓国新政権は、日本と同じく資本主義、自由主義という価値観を共有しながら、歴史認識問題については日本と根本的に相容れない価値観を持ち続ける構造の中で存在する。日本でK-POPや韓流ドラマが完全な市民権を得た一方で、韓国では安重根、尹奉吉(ユン・ボンギル)、安昌浩(アン・チャンホ)など独立運動家を顕彰して潜水艦にその名を付している。これが日韓関係の現実なのだ。まずは、日本企業資産の現金化問題と佐渡島の金山問題を尹錫悦新政権がどう乗り切るのか、その手腕が注目される。

   
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