2024年5月21日(火)

21世紀の安全保障論

2022年4月1日

 自衛隊としては、奇襲攻撃の時期、場所、要領の特定が難しい以上、被る損害の軽減が課題となる。そのためには、ミサイル防衛態勢の強化、平素からの部隊、装備品、補給品などの分散と頻繁な移動、重要施設の堅牢化、代替施設の準備、囮の活用、サイバー・宇宙・電磁電子分野での抗耐性の向上、警備の強化などが必要となる。また、中国軍の奇襲攻撃の規模や効果を減殺するため、中国軍のミサイル基地、航空基地、艦艇、情報・指揮・通信拠点などに対する反撃能力の保有も課題である。

日本独自の課題をはらむ装備品・物資の備蓄・輸送

 ウクライナ戦争では、欧米諸国らが対戦車火器や対空火器などをウクライナ軍に多数提供し、粘り強い戦いを可能にした。裏を返せば、これらの提供が無ければウクライナ軍の戦闘力は早期に枯渇していた。

 ウクライナにとって幸運だったのは、陸続きのポーランド経由で装備品や物資を運び込むことができた点だ。この際、多数のトラックを用いて分散して輸送すれば、ロシア軍に発見されるリスクは小さい。

 侵略に対して自衛隊が粘り強く戦う上で装備品や物資は不可欠だ。しかし、外国からの装備品や物資の提供に関しては、日本はウクライナよりも遥かに厳しい。

 まず、欧米諸国から日本への輸送には時間がかかる。その上、日本への輸送手段は船舶や輸送機に限られるため、中国軍に発見され、攻撃されやすい。このため、有事に外国からの装備品等の提供に期待することは危険だ。

 同時に、日本の防衛産業には突発的な有事に対応して装備品等を増産する能力はほとんど無い。つまり自衛隊は、ウクライナ軍と異なり、国内に備蓄している装備品や物資のみで戦うのだ。このため、少なくとも1カ月以上にわたる戦いを可能にする装備品等の備蓄が課題となる。この際、中国軍による攻撃を防ぐ第一線となる南西諸島での備蓄は、特に重要である。

 他方、南西諸島において自衛隊が粘り強く戦うためには、中国軍の攻撃下でも、日本本土からの装備品、物資などの輸送を追求すべきである。この際、大量輸送の可能な海上輸送は効果的だが、低速の輸送船では攻撃を受けやすいため、高速の輸送船が不可欠である。

 また、南西諸島の主要な港湾が破壊されても小さな漁港や海浜に輸送できるよう、船体が比較的小ぶりで水深の浅い場所でも航行可能な輸送船が必要となる。更に、南北約1200キロメートルに広がる南西諸島では航続距離の長い輸送船は欠かせない。残念ながら、現在の自衛隊は高速で、船体が比較的小ぶり、水深の浅い場所でも航行可能、航続距離の長い輸送船を持たないため、この種の輸送船を多数調達して海上輸送体制を構築することが課題となる。

自国の正当性を主張する情報戦

 ウクライナ戦争では激しい情報戦が行われている。ウクライナ戦争は正邪を明確に区別できる戦争である。同様に、中国による日本への侵略にあっても正邪の区別は明確である。

 侵略を行う側は、正邪の区分を曖昧にして自らの正当性を捏造するため、フェイクに満ちた情報戦を展開する。このため、侵略を受けた国がその正当性に胡座をかいて情報戦を怠れば、国民や国際社会は侵略を受けた国の正当性に疑問を持ち始め、抵抗する意志が低下し、侵略を受けた国への支持や支援が手控えられる。これでは侵略者の思う壺だ。


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