2024年5月20日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2022年4月18日

 そして今や中共は、「西側諸国では言論の自由ゆえに国論がまとまらず、疫病対応も混乱し、米軍はアフガンから撤退するなど、衰退・没落の一途をたどっている。民主や人権といった概念においても中国の道が完全に勝利した。西側の民主は選挙の時だけだが、中国の民主は党の指導で人々を社会のあらゆる過程に参加させる。疫病による異常な死者数や人種差別を放置する西側の人権は虚構に満ちているが、生存権と発展権に重きをおいた中国の人権観念を踏まえた施策は、中国の内外に実際に豊かさをもたらし、より普遍的である」と全力で宣伝している。

 要するに中共は、西側の論理が世界を覆う状態を打破する「聖戦」を戦っているのであり、今こそ、その好機が到来しつつあると考えている。それが勝利して「中国が主導する世界史本来の姿」が回復されれば、中国の長年来の葛藤は完全に癒される。これこそが「中華民族の偉大なる復興」の姿であり、習近平新時代の「中国夢」である。

習近平にとっては好都合なウクライナ侵攻

 プーチン・ロシアは、西側への「聖戦」を生きる習近平新時代の中共にとって、またとない同志として立ち現れている。

 プーチン氏は、本来ロシア・ベラルーシとウクライナが「兄弟民族」として一体であるべきところ、2014年のユーロ・マイダン革命以来、ウクライナがEU諸国や英米と価値観・利害を共有し、著しくロシア離れしているように見えることに苛立ってきた。

 2月24日の開戦直後にロシア国営タス通信が「誤配」した、「ロシアは歴史的完全性を回復する」と題する文書は、反西側・大ロシア主義の世界観を満載した「勝利宣言」である(ブログ「ブーバチカの呟き」所収の全文訳参照)。

 曰く、プーチン氏は電撃戦によって「ウクライナを解放」することによって、「大ロシア人(=ロシア)、白ロシア人(=ベラルーシ)、小ロシア人(=ウクライナ)」からなるロシア世界の分裂を終結させ、「キエフ大公国をルーツとする兄弟民族の団結」を復活させる歴史的責任を担ったのだという。そして、ロシアに屈辱をもたらした西側主導の世界は一気に打ち破られ、これからは西側だけでなく、ロシア・中国・インド・イスラムを含む諸文明の力が併存し角逐し合う、斬新な多極化世界の姿を一気に実現したという点で、プーチン氏は偉大な業績を果たしたのだと誇る。

 去る2月4日、北京冬季五輪に合わせて「無制限の協力関係」を高らかに謳った中露首脳会談は、このような「聖戦」を生きる中露両国の「夢」を、互いに力強く確認するものではなかったか。そして、ロシアが制裁を受けて国力を減じても、中国への依存はむしろ深まり、中露関係は完全に中国主導となることから、中共にとって悪い話ではない。

ウイグル、香港、ゼロコロナも統制と指導の好機

 習近平新時代に入ってからの、およそ開かれたグローバル社会の一般常識とはかけ離れた中共の行状も、このような文脈で考えれば全て合点がゆく。

 中共は新疆ウイグル自治区において、ウイグル・カザフ族などのイスラム教徒を強制収容所に送り込み、さらには厳罰に処した。これは、経済発展によって「中国夢」を実現しつつある中国の社会と文化に馴染まず、むしろ外国や少数民族独自の文化に心が向かうイスラム教徒に対する根本的な不信に基づき、AI・ITを駆使した「科学的」な手法で「外国に影響された極端分子」を炙り出し、思想を改造するものである。

 また習近平中国は、法の支配による自由で開かれた社会であった国際都市・香港の価値を全力で損ね、香港国家安全維持法のもと、極端な監視社会・警察国家状態に陥れた。その判断の根本にあるのは、「西側勢力の思想的な毒から香港社会の安定を守る」ことこそ優先的・死活的な課題とみなし、今こそ西側的な思想を排除すれば、中国の文明的な力が香港、そして広州と深圳を含む「大湾区」において顕現し、一層の発展が実現するという発想であろう。


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