チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年3月25日

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平野 聡 (ひらの・さとし)

東京大学大学院法学政治学研究科教授

1970年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学法学部教授。アジア政治外交史担当。著書に『大新帝国と中華の混迷(興亡の世界史17)』(講談社)、サントリー学芸賞を受賞した『清帝国とチベット問題 多民族統合の成立と瓦解』(名古屋大学出版会)がある。

 最近、極小の粒子状物質PM2.5の飛来をきっかけに、中国の環境問題に対する関心が高まっている。しかし、複雑極まりない日中関係ゆえに、環境問題も日本にとってややこしい要素をはらんでいる。そこで、当面踏まえておくべき政治的な問題点を歴史研究者の視点から述べてみたい。

大気汚染によって中国国内で
関心を集める日本企業製品

 まず深刻な大気汚染の直接の効果として、昨年夏以来低調となった日本企業製品への関心が回復していることは注目に値する。空気清浄機の性能が日本企業製と中国企業製では大幅に異なるため、日本製品ボイコットの叫びを前にして日本企業製品から離れていた人々も、背に腹は替えられず、あるいはようやく人目を気にせず日本企業の顧客として戻りつつあるという。

 また大気汚染と合わせて、地下水の深刻な汚染が改めて大きく取り沙汰されている。『新京報』の報道 「守りを失った中国の地下水」(http://www.bjnews.com.cn/news/2013/02/24/249532.html)によると、人口過密な平原部における良質な地下水分布は5%を切り、6割近くの地下水が根本的に飲用に向かないという。中国で生産される食料品は、野菜を育て家畜を養う段階で既に高度の汚染水が用いられ、調理をするにも水道水の質が疑わしいというのであるから、座して複合汚染に蝕まれるしかない。このような極限状況が、数年前から中国を震撼させているメラミン粉ミルク事件や「地溝(下水)油」事件と相俟って、日本企業製品への秘かな信頼へとつながっているのだろうか。

 このような状況のもと、多くの日本企業は「中国とはこれまで通りの経済協力を続けて行き、中国市場で受け容れられ喜ばれる製品を誠心誠意供給するのみである」という立場でおられるかも知れない。しかし筆者のみるところ、今般の大気汚染をめぐる日中関係も予断を許さない。

 とくに、駐北京日本大使館関係者による「現在北京で生活することは人体実験のようなもの」という発言をはじめ、中国の環境問題をめぐる日本側からの批判に対する中国国内からの反発は根強い。それは他でもなく、日本企業の中国における存在感が非常に大きく、日本企業こそ中国における環境汚染の主要発生源のひとつであるのではないかと疑う人々が一定数存在するためである。

中国共産党官僚や環境汚染企業の利権に
不満を募らせる地元民

 もっとも筆者は、多くの日本企業は中国での操業に際し、戦後日本の経験に基づいて環境対策を施してきたと信じたいし、実際これまで「日本=環境問題の元凶」論は余り顕在化して来なかった。

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