チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年3月26日

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平野 聡 (ひらの・さとし)

東京大学大学院法学政治学研究科教授

1970年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学法学部教授。アジア政治外交史担当。著書に『大新帝国と中華の混迷(興亡の世界史17)』(講談社)、サントリー学芸賞を受賞した『清帝国とチベット問題 多民族統合の成立と瓦解』(名古屋大学出版会)がある。

※前篇はこちら

中国の急速な経済発展と
強い相関関係にある環境破壊

 実際のところ、日本の対中経済協力と中国の急速な経済発展、そして環境破壊のあいだには、極めて重大な相関関係がある。

 中国の経済発展における最大のボトルネックであったエネルギー問題の打開のため、莫大な円借款が鉄道の建設に投じられたのはその一例である(以下、JICA公式HPに掲載されている円借款事業事後評価レポートによる)。

 中国のエネルギー源は長らく石炭が主力であり、石油・LNG・原子力の利用が増えつつある今日においても未だ7割を石炭に依存している。しかし、その主要消費地である沿海部と、一大産地である山西省・内モンゴル自治区南西部は遠く離れ、華北を東西に数百km縦断したうえで上海・広東周辺へと航送する必要がある。とはいえ、毛沢東時代の鉄道・港湾インフラは極めて脆弱であり、改革開放が過熱した1980年代後半には、たちまち沿海部での石炭不足と停電が慢性化した。

 したがって中国政府にとって、エネルギー不足を打開し高度成長を実現するためにはさらなる鉄道建設が必要であったが、当時の中国政府は税収・外貨収入とも困窮し(今や信じられないかも知れないが、厳格な外貨管理のための「外貨兌換券」が1990年代半ばまで流通していた)、自前でのインフラ建設は限界に直面していた。また、経済発展の先頭を走り始めていた広東省は険しい山岳によって他の省と隔てられ、石炭輸送も担う大幹線であるはずの「京広線」湖南省南部~広州間は、急カーブが連続する単線に過ぎないという惨状であった。

中国のエネルギー不足打開を支えた日本の円借款

 そこに手を差し伸べたのが日本の円借款である。80年代後半、京広線複線化事業に総工費の約半分・136億円が投じられた結果、1992年には1985年の8倍以上の貨物輸送が可能となったが、そのようなタイミングと合わせるかのように鄧小平の「南巡講話」(広東歴訪時の大胆な市場経済化の呼びかけ)がなされ、春節明けともなれば怒濤のような勢いで内陸部の出稼ぎ農民が広東に流入する(民工潮)ことも可能となった。

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