2024年5月21日(火)

未来を拓く貧困対策

2022年6月4日

合理性や専門的知見を求めた熊本判決

 これに対し、熊本地裁では、国民感情による政策決定は争点にならなかった。代わりに原告は、生活保護基準の政策決定過程に争点を絞り、裁量権の逸脱・濫用があったと主張した。

 判決では、「厚労相の裁量判断の適否の審査では、統計等の客観的数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無について審査されるべきである」とした。

 そのうえで、「デフレ調整を行うに当たっては専門的知見に基づく複合的・多角的案分析及び検証を行うべきところ、厚労相は適切な分析及び検討を怠った」として、原告の主張を認める判決を出した。

 なお、生活保護基準の検証方法は専門的になるため、ここでは原告の支援団体が作成した四コマ漫画を紹介するに留める。オリンピック云々は除いて、原告側の主張はほぼこの漫画に集約されている。

(出所)いのちのとりで裁判全国アクション「漫画で分かる、物価偽装」  写真を拡大

 熊本地裁は、基本的にはこれらの原告の主張を認め、統計等の客観的数値との合理的関連性、専門的知見との整合性という二つの面で、厚労相の判断に問題があると結論づけたのである。

生活保護引き下げ訴訟が与える社会的インパクト

 生活保護基準を争った裁判としては、1957年に国立岡山療養所に入所していた朝日茂氏が厚生大臣を相手に、日本国憲法第25条に規定する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」と生活保護法の内容について争ったものがある。世にいう「朝日訴訟」である。

 東京地裁では、低すぎる生活保護基準は違法であるとして原告の主張を全面的に認めた。東京高裁では原告の請求棄却、上告審の途中で原告が死亡。最高裁は本人の死亡により訴訟は終了したと判決を下した。

 しかし、裁判の過程で低すぎる生活保護基準が社会問題となり、生活保護引き上げや社会保障制度の発展に大きな影響を与えたと言われる。基本的人権の尊重を学ぶ際に真っ先に取り上げられる裁判であり、詳細は知らなくても、社会科や公民の授業で朝日訴訟の名前を聞いたことのある人は多いだろう。


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