日本人が知るべき
本当の危機
日本の食料危機は、価格高騰によって食品・食料が〝買えなくなる〟ことよりも、日本有事にも直結する台湾有事などにより、シーレーンが封鎖・破壊されることにより〝届かなくなる〟ことで引き起こされる可能性が高い。輸入が途絶すれば、昭和の終戦直後のように、食べられるのは基本的にコメとイモだけになりかねない。当時のコメ配給量は1日に2合3勺。年換算で1人当たり120㌔グラム。現在の人口に置き換えると、年間1600万㌧(玄米)になるが、現在の生産量は675万㌧にすぎない。農地も600万㌶から440万㌶に減少している。
この背景にあるのが、「減反(生産減少)」だ。減反で米価を高くすることで兼業農家を維持した。これで農協は力を維持し、農林族議員を輩出できる。また、組合員の兼業収入や農地の宅地転用による利益がJAバンクに預金され、これを元に米国の金融市場で〝稼ぐ〟という構図が実現した。危機が現実味を帯びる中でも国民のためという視点を忘れ、JA農協が利益を受けるよう、補助金で(コメの)生産量を減らすなどという愚行をしているのがわが国の農政である。このような国が世界のどこにあるというのか。
日本の政策では一貫して、高米価・低麦価が続けられている。兼業農家が増えた結果、田植えが6月から連休のある5月に移行し、秋に種蒔きして5月に収穫する麦の生産ができなくなる。そのため、コメのみが優遇されるようになったわけだ。
日本でも食料危機は起こりうる。その時を見据え、コメの増産を行い、平時には輸出、有事には国内で消費すればよい。欧州連合(EU)は過剰分を国際市場に輸出する一方、国内市場しか考えない日本は生産減少で対応した。EUはもう食料危機を恐れない。
小麦価格が高騰すれば、コメの消費を増やせばよい。経済学でいう代替関係である。コメの増産による価格低下が起これば、専業農家に所得補償をすればよいだけだ。コメの生産減少が農政の目的なので、単収を上げる品種改良は日本ではタブーとなった。単収の増加を抑制しているのも、日本だけだ。
シーレーンの封鎖・破壊は、輸入食料、石油の途絶ももたらす。そうなれば、トラクターなどの農機も動かせず、肥料・農薬も作れなくなる。事実上、日本の農業は終戦直後の状態になる。
有事に備えて、「国民皆農」となるべく、教育現場で田植えの方法を教えたり、学校のグラウンドやゴルフ場などもいざとなれば、農地転用できるように準備を進めたりしておくことも必要だ。それでも必要な農地面積を確保できない以上、外国産農産物の輸入・備蓄で対応する必要がある。
食料危機が叫ばれる中にあっても、日本の農政が食料安全保障と逆方向の政策を講じていることについて指摘されることは少ない。「危機」が叫ばれるときこそ、その本質がどこにあるのか見極め、手を打っておくべきだ。
(聞き手/構成・編集部 大城慶吾、友森敏雄)
安全保障と言えば、真っ先に「軍事」を思い浮かべる人が多いであろう。だが本来は「国を守る」という考え方で、想定し得るさまざまな脅威にいかに対峙するかを指す。日本人が長年抱いてきた「安全保障観」を、今、見つめ直してみよう。