2024年5月20日(月)

世界の記述

2022年8月10日

台湾海峡はすでに変わってしまったか

 グレイザー氏は、ドイツの国際公共放送ドイチェ・ベレ(DW)の取材に対しても「中国は、台湾封鎖が可能であることをはっきり示した」と指摘。今回、中国がミサイルを打ち込んだ六つの海域について「一つは台湾基隆港、一つはバシー海峡封鎖が目的で、国際海運を止めるため。もう一つは、台湾の主要空港を封鎖するためだった」と述べた。

 さらに、「中国が台湾海峡で長距離ミサイルを使ったのは初めて。ミサイルが台湾上空を飛んだのもこれが最初」と語り、中国がもう台湾海峡の現状を変えてしまった事実を強調した。

 中国は南シナ海で、島を造成し軍事基地を建設することで現状変更を果たしたという。中印国境の現状変更も終え、台湾海峡でも今回、新たな常態が生まれたとみている。同氏は「米政府は、台湾海峡の現状回復を望むだろうが、非常に困難だ」と指摘した。

経済制裁の台湾への影響は

 中国は台湾への軍事行動とともに、厳しい経済制裁にも着手した。中国本土の中国税関は、ペロシ氏の訪台とともに、台湾の食品会社100社余りの商品2066点の輸入禁止を命令した。まもなく台湾産のかんきつやタチウオ、砂の禁輸も追加した。台湾の中央通信社によれば、禁輸品は対中輸出される台湾産食品の65%にあたる。

 ただ、中国の経済制裁の方は、本気度が足りないかもしれない。台湾メディアの風伝媒よると、台湾のシンクタンク、中華経済研究院・地域発展研究センターの劉大年主任は「象徴的な懲罰に過ぎない」と指摘した。

 劉主任によると、台湾の対中輸出の6割以上は電子部品とIT製品。劉主任は「中国はこれら2製品の輸入をむしろ奨励している。かえって台湾は、2製品を報復手段として使える」と語った。

 2010年締結の中台の自由貿易協定「両岸経済協力枠組み協定(ECFA)」で、台湾側の交渉代表を務めた、東呉大学の高孔廉教授も「中国は、台湾の食品や農水産品の輸入を禁じたが、これらが台湾の輸出に占める割合は小さい」と指摘。「制裁の効果が小さいだけでなく、台湾国民の気持ちをますます遠ざける」と述べた。

 ただ、高氏によると、ECFAの重点内容となった、石油化学、輸送、機械、紡織の4産業に関われば、台湾製造業への影響は小さくない。

 今のところ、制裁が台湾に与える効果は限定的とみられるが、台湾紙・工商時報は、世界シェア66%の台湾の半導体メーカーが、何らかの制裁対象になれば、影響は図りしれないと報じた。

 同紙によれば英調査会社のキャピタルエコノミクスのエコノミスト、マーク・ウイリアム氏は、中国は直接的な侵攻以外にも、さまざまなやり方で台湾を攻撃できるとみている。台湾を封鎖して人と物の流れを止めることも十分に可能だ。

 同氏は「半導体露光装置メーカーの蘭ASMLが台湾から撤退するだろう。そうなれば台湾積体電路製造(TSMC)は生産力の増強も、次世代半導体の製造もできなくなる」と述べた。


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