2024年5月20日(月)

ビジネスと法律と経済成長と

2022年9月15日

 法律が定める乗車拒否等の正当理由の例としては、天災などで運行に支障がある場合や、既に満員で乗客を乗せることが出来ない場合、乗客が危険物などを持ち込もうとしている場合が挙げられる。

 新型コロナウイルスなどの感染症に感染していたり、症状の所見がある場合も乗車拒否の理由となる。しかし、症状がない乗客の場合、マスクを着用していないというだけではこれには当たらない。

「マスクをしない」は迷惑行為にならないか

 他方で、法律が定める乗車拒否等が認められる場合の一つに、乗客が「泥酔した者又は不潔な服装をした者等であって、他の旅客の迷惑となるおそれのある者」に当たる場合が含まれている。

 厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症対策の一環として屋内や公共交通機関内でのマスクの着用を推奨しており、リーフレットの中でも「通勤ラッシュや人ごみの中ではマスクを着用しましょう」などと呼び掛けている。そのような状況からすると、マスクを着用しない乗客が「他の乗客の迷惑となるおそれのある者」にあたると判断される場合もあり得るだろう。

 それについて、厚労省の呼びかけは、公共交通機関内でのマスク着用をあくまで「推奨」するものであり、いわば「お願い」だ。また、マスクを着用しない人の中には、アレルギーなどの健康上の理由があることもある。単にマスクをしないというだけでは、他の乗客の迷惑となるおそれがあるとは言えないだろう。

 また、路線バス会社の中には、運送約款の中に、「乗客がマスクを着用していない場合にはその理由を聞いた上で、正当な理由がないと判断した場合にはマスクの着用を求めることができるとした上で、乗客がそれに応じなかった場合に、乗客本人や他の乗客の安全や健康に危害を与えるおそれがあると判断される場合に乗車拒否等をすることができること」を定めている会社もある。

 このように、マスクを着用しないことを理由に乗車拒否や降車を求める場合には、理由の確認などの丁寧な対応が求められるといえるだろう。

 なお、今回のケースに関していえば、運輸局が行政処分に踏み切った背景として、マスクの着用に応じなかった乗客をバス停以外の場所で降ろしたという対応も重視されたであろうことは想像に難くない。


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