前回はウィキリークスを参照することで、一定の社会環境の中で形成される権力と、その可変性を論じた(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2690を参照)。リークツールの構築によってリークを容易にしたウィキリークスは、TwitterやFacebookをはじめとするSNS、またアサンジ自身がメディアに登場することで人々を動員し、権力行使を可能にした。だがその一方、権力を握ることで逆に彼らが権力体として認識されるという、権力バランスが孕む問題を論じた。
権力のバランスが崩れるとき、人は何をもってその権力を肯定・否定するのだろうか。通常は法がそれを判断するが、法そのものが信頼できない時、あるいは、そもそも法が存在しない場合はどうするのか。本稿では、現在も活発な活動を続ける匿名抗議集団の「アノニマス」を参照することで、その巧みな大衆動員の手法や、違法行為に対する国際法の問題点について論じたい。
合法・違法を問わず幅広く活動
「アノニマス」とは?
アノニマスとは匿名(anonymous)を意味する、不特定多数のインターネットユーザー間の緩やかなつながりの中で形成された抗議団体であり、その起源はアメリカの画像掲示板「4chan」にある。2006年頃から4chan住民の一部が様々な抗議活動を開始することで登場したアノニマスは、2008年に行った新興宗教団体「サイエントロジー」に対する抗議で一躍注目を浴びた。
彼らはネット上で抗議の声を挙げるにとどまらず、街頭デモを行うこともあれば、DDoS攻撃(Distributed Denial of Service)という、相手方のサーバーに負荷をかけてシステムをダウンさせるサイバー攻撃もある。さらに近年では、抗議対象サイトに不正侵入し内部情報を公開する等、合法・違法を問わず活動手段は幅広い。
彼らの特徴としては、「情報の自由を守る」といった一定の大義をもとに集結していることが挙げられる。彼らの抗議は、ネットの自由や情報の自由が妨げられた時に、この大義を掲げることで自らの行為を正当化する(とはいえ、近年では必ずしも情報の自由という大義にそぐわないような抗議も行なっている)。
また固定したメンバーがおらず、抗議対象ごとに参加メンバーが異なり、参入離脱が自由なこと、サイバー空間におけるコミュニケーションツール(具体的にはIRCチャットというシステム)を用いて戦略会議を行うといった特徴もある。