2024年5月14日(火)

オトナの教養 週末の一冊

2022年9月30日

 著者はこうも記す。

 学生らにとっては、これまで時に具体性に欠け、理論に偏りがちの印象を受けた講義や課題演習の数々が、一気に現実世界に即したものになった。(中略)いま講義で教えている内容が、現実の公衆衛生上の危機に際してどのように応用され、どのように役立つかをリアルタイムで学ぶことができたというわけだ。

 今勉強していることや教えていることが、現在進行中の事象に直接関連する学問はそうそうない。ジョンズ・ホプキンスの学生や教員は平時ならば得がたい、貴重なタイミングで研究を深めることができている。これもこれまで築いてきた研究のしっかりとした基盤があったからこそだろう。

 OBの強さも印象的だ。コロナの特設サイトを立ちあげ、運営にあたっているのは、大学の傘下にある「ブルームバーグ公衆衛生大学院」である。言わずとしれたマイケル・ブルームバーグ氏の名前を冠している。

 日本でも良く知られるブルームバーグ氏は、情報サービス会社で成功したメディアビジネスの巨人であり、元ニューヨーク市長でもある。そのブルームバーグ氏でも、1964年に電気工学科を卒業した翌年には、たった5ドルしか大学に寄付できなかったという。しかしその後の活躍で財をなし、累計で35億5000万ドルも寄付できるようになったというのはまさにアメリカンドリームの象徴であるといえる。

日本の大学に求められる改革

 日本の大学のあり方を見ていると、ジョンズ・ホプキンスとは天と地ほどの違いがあるようにも思える。産学協力は日本でもようやく進みつつあり、 企業が寄付をして大学が研究を進める動きも近年、活発になってはきている。しかし、それは米国のスケールとはまったくレベルが異なっている。こうした違いは明らかに研究力の格差として立ち現れている。

 ただ本書が浮き彫りにするのは ジョンズ・ホプキンスの優れた側面だけではない。以前から感染症拡大を予見し、警鐘を鳴らす報告書を発表していたものの、なかなか効果的な対策を打つに至らなかった事情なども示される。 そうした経緯がありながらもジョンズ・ホプキンスは最先端の教育・研究機関として実績を積み上げ、存在感を発揮し続けている。

 本書はそうしたジョンズ・ホプキンス大学のリアルな動きを、ベテランのジャーナリストが綿密な取材で解剖した。コロナをめぐる米国の大学のさまざまな取り組みや、工夫、成功に導いた手法など、あらゆる面が参考になる。 日本の大学人が本書から学び、米国の水準に少しでも追いつけるような改革を実現してくれることを期待する必読の力作である。

   
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