2024年5月20日(月)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2022年11月6日

 日本の場合は、漁獲可能量(TAC)自体が大きすぎです。2021年度のTACは4573トンで漁獲量は2090トンで、TACの消化率は僅か46%です。TACが大きすぎれば、それが個別割当制度(IQ,ITQ,IVQなど)で適用されても機能しません。漁獲枠が大きいので、必然的に漁業者は、オスメス関係なく漁獲しますし、メスをも海に放流しません。

 これが、もしノルウェーなどと同様に、TACや個別割当制度が設定されていたらどうだったでしょうか? 当然、価格が安く水揚げしたら資源にも悪いメスは海に戻し、大きくて価値が高いオスだけを持ち帰るように変わるのは自明です。

 資源管理で結果が出ている国々から学び、資源量を回復させてサステナブルにするために、メスの漁獲を制限すること。そして漁獲枠を漁船・もしくは漁業者ごとに配分して、オスの水揚げのみにさせる制度が賢明ではないでしょうか?

 メスの漁獲については、ノルウェーのように資源量が潤沢になった時点でどうすれば考えればよく、兎にも角にも、まず必要なのは資源量の回復です。

米国(アラスカ)のズワイガニ禁漁の意味は?

 2022/2023年の漁期でのアラスカ・ベーリング海のズワイガニ(オピリオ種)漁が、初めて禁漁になりました。アラスカのズワイガニは、長年日本にも輸出されています。

 20/21年の漁期に、前期16万7300トンと推定されていた資源量が、2万6740トンに激減しているという発表がありました。このためTACも2万400トンから2500トンに大幅減少となりました。そして、22/23年の漁期で初めての禁漁になったわけです。

 しかしながら、すでに資源量は2万6740トン⇒4万1200トン(21/22年)⇒5万5000トン(22/23年)年と回復傾向にあります。かつTACを決める科学的根拠となる生物学的許容漁獲量(ABC)は7700トンとなっています。

 日本の21年の漁獲量は2500トンでしたので、約3倍の数量が生物学的に漁獲可能なのです。ところが、成熟したオスの資源量が最低必要量を下回っているという理由で、禁漁になったのです。

 もしも日本で、科学的にオスメス込みで7700トン漁獲してもよいのに「禁漁」という措置を獲れば、大騒ぎになったことでしょう。

 ここでぜひ気付いていただきたいのは、米国ではメスを漁獲しないこと。そして予防的アプローチを取って将来に備えているということです。

 ノルウェーのところで、ズワイガニの資源を発見したのは1996年なのに、漁獲を開始したのは2012年からと記述しました。

 こういった科学的根拠に基づく資源の持続性と将来を考えて漁業を続ける仕組みが、いかに重要かということなのです。

 どなたも言い出しませんが、現在の資源量を勘案して海外の成功例と比較すれば、日本でもメスの漁獲を止めるべきなのです。そして、資源が十分に回復してからメスの漁獲について考えればよいのではないでしょうか?

 科学的根拠に基づき、漁業者や漁船ごとに漁獲枠が分配されて資源が回復したとします。そうなると、オスに比べて単価が安いメスは、上記の国々同様に海に戻すようになるはずです。そして、海に戻されたメスは産卵し、資源が現在の悪循環から好循環ヘと転換することになるのです。

 ズワイガニの資源を回復するためには、まずメスの漁獲を止める事です。そして漁業法改正を機に、世界と日本の水産資源管理を比較して、科学的根拠に基づく資源管理を実行することが不可欠なのです。

 
 『Wedge』2022年3月号で「魚も漁師も消えゆく日本 復活の方法はこれしかない」を特集しております。
 四方を海に囲まれ、好漁場にも恵まれた日本。かつては、世界に冠たる水産大国だった。しかし日本の食卓を彩った魚は不漁が相次いでいる。魚の資源量が減少し続けているからだ。2020年12月、70年ぶりに漁業法が改正され、日本の漁業は「持続可能」を目指すべく舵を切ったかに見える。だが、日本の海が抱える問題は多い。突破口はあるのか。
 特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます。

   
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る