2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年6月11日

 そして、アメリカとの間でサイバー攻撃を防ぐための「共通ルール」まで作ってしまえば、それはまた、当の人民解放軍に対する締め付けのルールであるに他ならない。そうなると、少なくとも人民解放軍の目から見れば、自分たちの総司令官であるはずの習主席が「アメリカの手先」となって自分たちの首を押さえつけにくるものだから、習主席に対する軍の反発が高まってくることが予想される。軍事委員会主席に就任して日の浅い習主席にとって、それは政治的致命傷となりかねないのである。

 したがって、おそらく習主席は帰国してから、サイバー攻撃に対する「調査」を決して真剣に行わず、何らかの方法でアメリカ側を誤魔化していくことを考えるのであろう。しかしそれでは習主席は当然、オバマ大統領からの信頼を一気に失ってしまい、あの2日間の首脳会談の「輝かしい成果」は完全に台無しになるのである。

中国にとっての北朝鮮の存在価値

 北朝鮮の核問題についても同様である。そもそも今まで、北朝鮮の核開発が進んでいる中で、中国はなかなか北朝鮮に対して思い切った制裁措置をとることが出来なかったのは、中国側の切実な理由があってのことである。

 本来、北朝鮮の存在と一定の範囲内での暴走は中国にとってむしろ好都合である。というのも、北朝鮮が暴れると、アメリカは結局中国の力を借りてそれを押さえつけるしかないため、アメリカに対する中国の立場はその分強くなる(実際、今回の米中首脳会談で習主席がアメリカからあれほどの厚遇を受けた理由の一つもやはり北朝鮮問題があるからである)。そういう意味においても北朝鮮は中国にとって価値のある存在だから、思い切った制裁措置で完全に切り捨てるようなことは当然したくはない。

 しかも、北朝鮮をあまりに追い詰めて体制の崩壊や軍事的大暴発を誘発してしまえば、様々な面で直接的な被害を受けるのもやはり領土を接する中国自身であろう。そして、もし北朝鮮が崩壊して朝鮮半島が米国の同盟国である韓国によって統一されるようなこととなれば、それこそが中国にとっての悪夢なのである。

 したがって中国は結局、北朝鮮に致命傷を与えるような制裁措置に踏み切ることがなかなか難しいし、一方の北朝鮮は、どんなことがあっても核の開発を放棄せずに最後まで踏ん張るのであろう。そうなると、北朝鮮の核開発阻止のための「具体的措置」を取ることをオバマ大統領に約束したはずの習主席は今後、自らの「準同盟国」であるはずの北朝鮮との戦いを始めなければならないが、その戦い自体はむしろ中国の国益を損なうものであり、しかもそれはまったく勝算のない長丁場の戦いとなるはずだ。


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