2024年5月20日(月)

ニュースから学ぶ人口学

2022年12月27日

 食料、資源の枯渇が懸念されただけではない。人口増加と経済成長は、開発を通じて土壌、海洋、大気などの環境を汚染し、草原や森林などの環境破壊を進めてきた。その結果、生物多様性が損なわれることも深刻になった。その後、化石燃料の大量使用による温暖化ガスの排出が地球温暖化をもたらしてきたことも指摘されるようになった。

 18世紀に始まった産業革命は、地域的な公害をもたらしただけではなく、地球環境や生態系全体に影響を及ぼし、気候を変動させるほどになってしまったのだ。

 人類の営みが、地質にも明瞭な人為的な痕跡を残すようになったという理由で、新生代第四紀完新世は終わり、今は「人新世」(アントロポシーン)になったとする提案がなされている。地球人口100億人に迫る21世紀は、恐竜が滅びたように、人類が滅亡に直面するのだろうか。あるいはそれを避けることは可能なのだろうか。

『成長の限界』から『Earth for All』へ

 人口爆発による貧しさへの転落を避けて、地球環境を良い状態に維持しながら、豊かさの向上を実現することはできるのか。そのための提案は、早くから検討されていた。

 『成長の限界』が出されたのと同じ年に、ノーベル物理学賞の受賞者であるデニス・ガボールが『成熟社会』(1972年)において、物質的な量の豊かさを追い求める大量消費社会ではなく、高度な物資文明と共存しつつ、精神的な豊かさや生活の質の向上を追求する社会の実現を提唱した。

 環境と開発に関する世界委員会が1987年に発表した報告書「Our Common Future」において、「持続可能な開発」の概念を掲げて、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」(国連広報センター)の実現を目指すことを求めた。国連環境開発会議(地球サミット・1992年)から国連持続可能な開発会議(リオ+20・2012年)に至る検討を経て、2015年の「持続可能な開発サミット」で「2030アジェンダ」が採択された。

 その中核をなすのは、2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲット、230の指標からなる「持続可能な開発目標」(SDGs)である。その実現は簡単ではないが、50年前の警告を真正面から受け止めて、持続可能な豊かさを実現しようとする世界的な行動である。

 22年9月に、新しいローマクラブ報告書として『Earth for All 万人のための地球』が発表された。貧困、不平等、女性のエンパワーメント、食料、エネルギーの5分野で取り組むべき課題を示し、その解決策を具体的に明らかにすることを通じて、経済社会の劇的な転換を促すことによって、持続可能な未来を実現することが可能であることを示している。

 半世紀前には資源枯渇と環境破壊の恐怖に迫られて怖気づいていたものが、再生可能なエネルギー資源やICTなどの技術革新に支えられて、持続可能な新しい文明の姿が徐々に明確に見えるようになってきたようだ。


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