イノベーションの創出には博士人材の活躍が欠かせない。日本社会に横たわる課題とその突破口について、東京大学の「天才」たちが〝雑談〟した。
聞き手/構成・編集部(大城慶吾、木寅雄斗)
撮影・さとうわたる
瀧口 今回のテーマは「日本が〝尖った〟人材を活かすには」です。その筆頭が博士人材であり、現在、日本では博士を増やすことが喫緊の課題ともいわれていますが、その背景や理由について、まずは伺っていきたいと思います。
合田 米国が基礎研究を行い、それを基に日本が大量生産をする、というのが昭和日本の産業構造でした。その中で求められていたのは、博士人材というよりも、「ミスをしない均一な人材」でした。大学の役割も、海外の学問を日本の社会や産業に合わせて翻訳することでした。
しかし大量生産の担い手の座は中国や東南アジアなど、新興国に奪われました。日本の産業にはイノベーションと、イノベーションを生み出せる博士人材が必要です。これからの日本はアイデアを翻訳するのではなく、アイデアを生み出す側に回る必要があるのです。昭和モデルからはイノベーションは生まれません。
加藤 僕は博士人材を「課題解決能力に優れている人」と定義しています。課題を解決するにはさまざまな知識が必要になってきます。博士とは、課題の中の問題を発見し、社会のニーズや歴史を理解し、それらを踏まえた提案ができる人。そして、提案したものと過去の前例を比較し、どのくらい優れているのかを定量的に数値などで示し、簡潔に伝えられる人です。その能力は、5年間の博士課程で育まれていくことになります。
合田 修士と博士の違いは、「独自に」課題を解決できる能力があるかですね。各大学で違いはあっても、この「自ら」という部分は変わりません。
江﨑 僕が博士に要求しているのは、抽象化とストーリーメイキングができることですね。修士では特定の分野の中だけ見えていても構いませんが、博士になると「隣の庭」である違う分野もしっかり見て、その上で僕の研究はこういう立ち位置ですよ、というストーリーを語れないといけません。
新藏 医学部の場合、修士にはならず医師免許を取って医者になり、その後に大学に戻って博士号を取るパターンが普通で、私自身もそうでした。博士号を取る前後で何が変わったかといえば、製薬会社の医薬情報担当者(MR)の言うことを鵜呑みにしなくなったことですね。示されたデータに対し、正しいかどうかを自分で柔軟に判断する、この「仮説思考」が重要です。これが固定観念を切り崩し、イノベーション創出につながる鍵だと思います。