2024年5月20日(月)

天才たちの雑談

2023年1月25日

新藏 なぜ日本では循環システムが成立しにくいのでしょう。給料が低くて生活できないからと、研究者の道を諦める優秀な学生も多いです。「ここが駄目なら、もう次がない」という不安をずっと抱え、思い詰めてしまう。失敗してもまた挑戦すればいい、そういう社会になるべきと思うのですが……。

合田 実は、遺伝子レベルで日本人は挑戦が苦手だという報告があります。米国人と比較して、日本人は不安を感じやすい「セロトニントランスポーター遺伝子」の型を持つ割合が非常に高く、民族的に失敗を恐れて挑戦をしたがらない集団です。おそらく、天災が多い環境の中で、リスクを取らないように日本人が適応していった結果なのではないでしょうか。

江﨑 そうなるとますます、多様な人種の間で議論するといったことが重要になってきますね。

産学連携を拒む
「不公平」という壁

加藤 この遺伝子レベルで「詰んだ」状況をひっくり返して、人材の流動性を上げるには、僕は「社会人博士」が最適だと考えています。修士課程から博士課程に進む学生はこれから課題を探すことになりますが、社会人博士は元の所属先で既に課題に直面していて、その課題を解決するために博士課程に来るわけです。博士を増やすには、まずその裾野を広げて〝盛り上げる〟必要があります。そのためには、修士課程から博士課程に進む人を増やしたり、留学生に期待したりするのもいいですが、社会人博士を推奨する方が、よほど日本の競争力を高めることにつながります。

江﨑 僕の研究室でも社会人博士を受け入れていますが、彼らが抱える課題に対し、われわれ研究者が変化球を投げてあげると、思いもよらぬアウトプットの芽が出る場合が多いです。

加藤 大学は勉強をするには申し分ない環境ですが、勉強した理論を実践する場所がないのが現状です。もっと企業やベンチャーとの接点をつくり、人の往来をさせるべきです。それが本当の産学連携です。

 僕は自動運転ソフトを開発するベンチャー「ティアフォー」の最高技術責任者(CTO)を兼任していますが、それこそティアフォーの技術者たちを大学の研究室で受け入れられれば、会社は課題を解決できて、大学は外部の人材を取り込めて、ウィンウィンですよね。ですが、現状では難しい。

瀧口 なぜでしょう?

加藤 「不公平だ」と言われてしまうからです。国民の税金で賄う国立大学のリソースで、特定のベンチャーだけを成長させるのはいかがなものか、と。大学は公平性を重んじているわけですね。しかし大学が国民から本来求められているのは、より能力の高い人材を社会に供給することであるはずです。もっともここは、国立大学であるからには国民からの批判を無視できない大学側の立場も痛いほど分かるところではありますが。

 仮にティアフォーから受け入れた技術者が、卒業後に別の事業を始めてしまったとしても、結果的に雇用の流動性が高まるならば、それでいいと思うのですよね。

 社会人博士をより増やすために、大学教員がもっと、社会と接点を持つようにベンチャーやNPOなどを兼業して、外部とのつながりを増やして、人材を循環させるべきです。そうして米国のハーバード大学のように、外部収入を増やしていくべきでしょう。工学のようなハードにコストがかかる分野からしてみれば、国からの運営費交付金を少し増やしたぐらいでは意味がありません。

新藏 新薬を開発しようと、日本医療研究開発機構(AMED)に助成申請を出した時の話です。最初に大学だけで出したら、「企業との連携がないと駄目だ」と継続性の観点から却下されてしまいました。そこで、自分自身でベンチャーを立ち上げて、もう一度申請したら、今度は「(国立の)AMEDのお金が特定のベンチャーに流れては不公平になる」と却下されてしまって……。ではどうやって開発するのかと。今ではもうAMEDだけに頼るのはやめて、ベンチャーキャピタル(VC)からも資金を調達するようになりました。

江﨑 デジタル庁で官僚と付き合っている僕としては、一応言い分はあって(笑)。彼らも変えたいと思っている。ただ変えようとしても、なかなか人事面で評価されないのですよ。


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