医療を変える「現場の力」

2013年7月4日

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神保康子 (じんぼ・やすこ)

ライター

広告代理店勤務後独立。一般雑誌や看護師向け情報誌等のライター・カメラマンを経て国際医療福祉大学大学院医療福祉ジャーナリズム分野修士課程修了。主に医療、看護分野の取材、執筆、撮影を行う。

 細い道が入り組んだ東京都世田谷区の住宅街を、慎重に走るその小さな車の中で繰り広げられた風景に、まず驚いた。ボイスレコーダーに向かって診療情報を吹き込む医師、あちこちに電話連絡をする看護師、スマートフォンを使い処方箋を薬局にファックス送信する薬剤師……。もちろん運転は専門のスタッフがしている。

“動くオフィス”に乗って
専門職がチームで訪問

 ここは、東京都世田谷区で訪問診療を行っている桜新町アーバンクリニックの訪問診療用車両の中である。医師、看護師、薬剤師がチームとなって自宅で療養している方のお宅を訪問する、その移動中のひとコマだ。

 前の利用者さんの情報整理がひととおり終わると、残りの時間で素早く次の方の診療情報を共有し、チーム内でコミュニケーションをとる。その間約10分。渋滞の時間帯をのぞけば、だいたい10~15分ほどで次のお宅へ到着する。

 さっそうと車から降り立つ3人。しかし、利用者さん宅のチャイムを鳴らしドアを開けると、一気に時間の流れが変わる。そこからは「生活の場」なのだ。

91歳女性のお宅を訪問。ご本人の希望で在宅療養をされている。家族もすぐに医師と連絡がとれて何かと安心だと話す。(※ご本人、ご家族の了承済み)

 「こんにちは~。調子はどうですか?」

 療養されているご本人やご家族に、最近の様子を確認する医師、血圧をはかる看護師の傍らで、薬を整理し服薬状況を確認する薬剤師。そんな彼らの足にペットの猫がすり寄ってくることもあれば、そばで幼いお孫さんが遊んでいたりする。暮らしのペースにあわせながら、かつ専門職の手際よさをもって、在宅での診療は進んでいく。

 その日は、一人暮らしでがんの在宅療養をしている男性や、どうしても家に帰りたいと急遽退院してきた末期がんの女性、認知症の症状で一時的に医師のサポートが必要となった女性など、朝から10軒のお宅を訪問した。

なぜ在宅なのか?

 訪問診療は、暮らしの中に必要な医療を届ける、いわば「出前」のようなものだ。まず、その人の継続した暮らしがあって、そこに必要なだけの医療が要所要所で関わり、暮らしを支える仕組みである。病気や障害を持った人が、医療一色の病院へ、「患者」として入っていくのではなく、さまざまな彩りのある暮らしの中で暮らしながら療養することを可能にするための、重要な要素の一つである。

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