2024年5月17日(金)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2023年2月10日

日本のトリチウムだけ危険なのか

 太平洋諸島フォーラム事務総長が処理水の海洋放出について安全性への懸念を示したという。中国と韓国もまた同様の懸念を示している。

 しかし表に示すように、世界の原発と関連施設からトリチウムが放出されている。さらに、大気中の窒素や酸素に宇宙線(中性子)が当たって核破砕反応が起こり、年に7万兆ベクレルのトリチウムが発生している。

(出所)多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会資料を基に筆者作成
(注)*は太平洋に放出される量 写真を拡大

 そしてトリチウムは半減期12.3年で減少してゆく。その結果、地球上には100万~130万兆ベクレルが存在する。

 原発で発生したトリチウムは780兆ベクレル程度だが、東電はこれを年間22兆ベクレル以下に分けて海洋に放出する計画である。この量は各国の原発から放出される量と同程度であり、自然発生量に比べれば誤差範囲である。

 太平洋には中国、韓国、台湾、米国の原発からもトリチウムが放出され、その量は年間500兆ベクレルを超える。年間22兆ベクレルの日本の処理水だけに懸念を示し、他の国から放出される500兆ベクレルに何の懸念を示さないことの矛盾に気が付かないはずがない。さらに、自然発生する7万兆ベクレルをなぜ無視するのだろうか。そこには安全性とは全く別の思惑が働いているとしか考えられない。

「太平洋諸島フォーラム」とはなにか

 実はこの論説は、太平洋諸島フォーラム(以下フォーラムと略す)事務局長が英国の新聞「ガーディアン」に1月4日付けで投稿した「日本は太平洋諸国と協力して福島海洋放出問題を解決すべきだ――さもなければわれわれは災害に直面する」と題する意見投稿とほぼ同じ内容である 。フォーラムはこの問題を検討する専門家会議を設置しているのだが 、この論説に登場する専門家はすべてこの会議のメンバーである。

 フォーラムは太平洋島嶼 14 カ国と豪州、ニュージーランドで構成され、その中心課題は核問題だった 。この地域では1946年に米国がビキニ環礁で大気圏中核実験を開始し、米国と英国による核実験が相次いで行われた。

 54年には米国の水爆実験で被ばくした第五福竜丸の船員が死亡する事件が発生して、日本の原水爆禁止運動が誕生した。63 年には部分的核実験禁止条約が締結されて大気圏核実験が禁止されたが、フランスは条約に加盟せず核実験を続けた。この問題を解決するために71年に設立されたのがフォーラムである。

 その後、80年に日本は小笠原諸島北東の公海海底に低レベル放射性廃棄物を投棄することを決めたのだが、当然のことながらフォーラムは強く反対した。低レベル放射性廃棄物の投棄を許容していたロンドン海洋投棄条約が83年に実質的に変更され、日本は85年に計画を無期停止した。同じ年にフォーラムは放射性廃棄物の投棄防止条項を含む南太平洋非核地帯条約を調印した。


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