2024年5月21日(火)

未来を拓く貧困対策

2023年3月6日

学業成績不良の場合は返還、打ち切りも

 親世代がもう一つ注意しておきたいのは、成績不良による奨学金の返還や打ち切りである。親世代が大学に通ったころは、よくも悪くも厳格に授業の出席を取る大学教員は少なかった。とりわけ文系大学では、授業にほとんど出席しなくても、期末テストやレポートを提出すれば単位を取得できるケースが少なくなかった。

 しかし、現在の大学では文部科学省の指導や奨学金の認定要件として、授業への出席確認が求められるようになっている。授業に出席しなかったり、あまりにも成績が悪かったりすれば、学業不振や学ぶ意識の欠如があると判断され、奨学金が打ち切られることがある。

 打ち切られる際には、まず大学から「警告」という処置通知が交付される。これは、「修得単位数の合計数が標準単位数の6割以下の場合」「GPA(平均成績)等が下位4分の1の場合」「出席率8割以下など、学習意欲が低いと学校が判断した場合」のいずれかに該当した場合となる。警告に従わないと、奨学金が停止、廃止される場合がある。更に廃止になれば、奨学金の返還もありうる(ASSO「適格認定(学業等)」)。

 民間奨学金も、大半は成績要件を課している。

 大学生活を満喫した親世代の中には、「そんなに授業ばかり出ていないで、もっと大学生活を楽しんだらどうだ」と考える向きもあるかもしれない。しかし、現在の奨学金は甘くない。万が一、「警告」通知を受け取ったら、すぐにでも対策を取らなければならない。

ひとり親家庭の進学率が1.5倍に

 最後に、マクロな視点から奨学金改革の政策効果を見ておこう。

 奨学金に詳しい桜美林大学の小林雅之教授らは、新しい給付型奨学金の効果を検証している。調査では、給付型奨学金対象世帯の大学、専門学校などへの進学率(大学等進学率)は、制度導入前の16年の53.0%に対し、導入後の20年は61.5%と8.5%増加した。中でも進学率の増加が大きいのは私立学校と専門学校で、低所得層にとっては国公立大学のハードルは高く、私立大学や専門学校が有力な選択肢となっている(小林雅之・濱中義隆「修学支援新制度の効果検証」『桜美林大学研究紀要』2021.)。

 更に特筆すべきは、ひとり親家庭の大学等進学率の向上である(図3)。2013年に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」と「生活困窮者自立支援法」が成立し、経済的に厳しい世帯の進学支援の機運が高まった。奨学金改革との相乗効果もあり、この10年間で大学等進学率は約24ポイント向上している。実に、進学率が1.5倍となったのである。

(出所)厚生労働省「全国ひとり親世帯等調査」を基に筆者作成 写真を拡大

 逆にいえば、支援がなかった時代には、ひとり親世帯の子どものうち、4人に1人は経済的な理由で大学や専門学校への進学を諦めていたともいえる。一連の政策は自公政権の着実な努力で実を結んでいる。このことはもっと評価されてよいと思う。

 このように、給付型奨学金の対象となる低所得者層には政策効果を認めることができる。一方で、給付型奨学金の対象とならない中間層は、奨学金がもつ「ひずみ」の影響がでてきている。次回は、現行の奨学金制度がもつ負の側面を伝えていきたい。

   
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