2024年11月21日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年7月17日

 「いずれにせよ、われわれは、中国側がこの問題(尖閣問題)を提起しない限り、わが方からこれを積極的に持ち出すことは、徒に正常化交渉を複雑化するのみであるから避けるべし、との対処方針につき大平外務大臣の了承を得て北京に赴いたのである。したがって、九月二十七日の第三回日中首脳会談の席上で、突然田中総理が『どう思うか』といった口ぶりで尖閣問題に言及したことは、事務方にとっては想定外の出来事であった。しかし、これに対して周(恩来)首相が、この問題については『今回は話したくない。今、これを話すことはよくない』と応じたので、それ以上議論は発展しなかった。筆者は、このときの両首脳間のやり取りの結果、(中略)『解決しないという解決案』についての黙示の了解が生まれたと理解すべきと考え、これを『棚上げ』と呼んだのである」

「棚上げ」条件として「2つのルール」

 さらにこう続ける。「世上、尖閣諸島問題については、領有権に関する日本の立場は強固なのであるから、中国側の『棚上げ』論に同調すべきではないとの批判がある。中国の主張(日中間には、『棚上げ』についての明確な合意が存在する)は、確かに一方的に過ぎるが、(中略)中国側が『棚上げ』を主張し、日本側がこれを暗黙裏に受け入れたというのが事実の正確な描写であると思われる」

 しかし栗山は結論として次の「2つのルール」を守らないと「棚上げ」は成立しないと主張し、中国にもこのルールを守るよう求めている。

 「七二年の原点とは何か。それは、まず第一に、当時田中総理と周恩来首相が共有した尖閣諸島の領有権問題の決着を求めようとすれば日中両国失うものが余りにも大きい、との認識を今一度確認することである。そのうえで、双方とも、それぞれの領有権に関する立場を相手が受け入れることを要求しないこと、及び交渉によることなく、一方的に自らの立場を有利にしようとするいかなる行動も控えることの二つのルールを相互に尊重することについて合意することである」

野中広務が暴露した「角栄」発言

 72年の国交正常化交渉の際に「棚上げ」があったかどうかの議論は、現在、大きな争点となっている。栗山は中国の棚上げ論は「一方的に過ぎる」としているが、6月3日に中国共産党ナンバー5の政治局常務委員・劉雲山と会談した元官房長官・野中広務は会談後の記者会見で劉に語った内容を披露した。野中は、日中国交正常化を実現して帰国した田中から、自民党の若手を集めて箱根で開かれた研修会の場で「交渉秘話」を聞かされた。以下、野中の記者会見での発言。

 「田中先生は最後に尖閣問題について『あの問題についてこの際、話がしたい』と言ったら、周総理は『田中先生、今そこまで踏み込んで話をしたら、会談はなくなってしまう。いつまで話し合わなくてはならないか分からない』と話した。そこで大平外相が『今、田中先生が言ったことはわれわれが条約を締結して帰り、正常化の道を歩んだ際、右翼から尖閣問題はどうなったんだ、と聞かれた際に、話をした、とするために言ったものだ。今話をしなければならないということではない』とうまくその場を繕われた。あの難しい尖閣の問題は、お互いに棚上げすることで、将来にわたってお互いが話し合いをできる道を求めるまで波静かにやっておこうという話になった、と聞かされた」


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