2024年5月20日(月)

2024年米大統領選挙への道

2023年6月12日

対中国強硬派ナンバーワンを競う2人

 トランプ前大統領とデサンティス知事は、中国に対して好感が持てない約7割の米国人から支持を得るために、共和党大統領候補の中で、自分が最も対中国強硬派であるという印象を与えようとしている。

 例えば、トランプ前大統領は米中貿易戦争に焦点を当てて、中国製品に対して高い関税をかけて対抗すると宣言した。また、「バイデンファミリーは中国共産党と結びついた法人から利益を得ている」「バイデンはワシントンD.C.にある中華街に機密情報を持ち出した。どうして中華街なのか」と、有権者に疑問を投げかけて、バイデン大統領と中国を関連づけた。

 トランプ前大統領がバイデン大統領と中国の関係を集中攻撃するのに対して、デサンティス知事はフロリダ州における中国共産党の影響力を阻止する3法案に署名した。それらの法案には、中国の法人によるフロリダ州の軍事基地や重要インフラ(社会基盤)施設周辺の土地購入阻止、中国共産党と提携する法人が所有するサーバーへの機密データ保存停止、中国共産党の教育への影響力阻止、政府や教育機関でのサーバーやデバイスにおける中国系動画投稿アプリTik Tok(テイック・トック)のような危険アプリへのアクセスのブロックが含まれている。

性における「脱多様性」

 余談になるが、日本では与野党によるLGBT理解増進法案を巡る攻防の末、同法案が国会で成立する見通しだ。ただ、性的少数者に多様性が存在している点を軽視しているのではないだろうか。母校を例に出して恐縮だが、明治大学では「LGBT等」を用いている。ホワイトハウスは「LGBTQI+」を使い、広島G7サミット(主要7カ国首脳会議)のコミュニケでは「LGBTQIA+」と明記された。

 ジェンダーに関する広島G7サミットのコミュニケには、「我々は、長年にわたる構造的障害を克服し、教育などの手段を通じて有害なジェンダー規範、固定観念、役割及び慣行に対処するための我々の努力を倍加させることにコミットし、多様性、人権及び尊厳が尊重され、促進され、守られ、あらゆる人々が性自認、性表現あるいは性的指向に関係なく、暴力や差別を受けることなく生き生きとして人生を享受できることができる社会を実現する」という文言が盛り込まれた。

 しかし、フロリダ州は広島G7サミットのコミュニケとは正反対の方向へ進んでいる。性における「脱多様性」を目指すデサンティス知事は、「フロリダ州の青写真は連邦政府の政策の指針だ」と断言した上で、「米国をフロリダにする」と誓った。連邦政府はフロリダ州の成功事例を学べと言う意味だ。

 デサンティス知事は、性自認と性的指向について幼稚園や学校で議論することを制限した。これでは、LGBTQIA+に対する差別、偏見およびステレオタイプ(固定観念)が強化されるのは当然だ。仮にデサンティス知事が次期米大統領に就任すると、米国は反LGBTQIA+のメッセージを国内外に発信し、性における脱多様性を支持する人々にパワー(力)を与えることになる。

ウクライナへの「無関心・無関与」

 次に、ウクライナ支援への影響である。トランプ前大統領が第47代大統領に就任すると、ウクライナ政府は質と量の双方において、バイデン政権時代と同等の軍事支援、人道支援並びに復興支援を得ることが困難になると予想される。

 その背景にはトランプ前大統領を支持するMAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大にする)の存在がある。北大西洋条約機構(NATO)とギクシャクした関係にあったトランプ前大統領は、ロシアのウクライナ侵攻をヨーロッパの問題として再定義し、MAGA支持者のウクライナへの「無関心・無関与」に応える行動をとるとみてよい。同前大統領は、確実にNATOに対してウクライナ支援の負担増を求めてくる。「ヨーロッパの戦争なので、NATOの負担増は当然である」と主張して、MAGA支持者を喜ばすだろう。

 一方、デサンティス知事は前述の通り、ロシアのウクライナ侵攻に関して「領土紛争」であり、「米国の重要な国益ではない」とコメントをしたが、身内の共和党内からも批判を浴びると、プーチン大統領を「戦争犯罪者」と呼び、ロシア侵攻を非難して発言を修正した。しかし、デサンティス知事の最初の発言を聞いた筆者のゼミに所属しているマリウポリ出身のウクライナ人留学生は、同知事を信用しないと言う。仮にデサンティス政権が誕生した場合、ウクライナ政府は同政権との信頼関係の構築に時間を費やさなければならない。

トランプとデサンティスの影響力

 以上、フロリダ州を地盤に持つトランプ前大統領とデサンティス知事の影響力を争点別にみてきた。トランプ氏ないしデサンティス氏が24年米大統領選挙で勝利すると、少なくともジェンダーとウクライナ問題で、米国と世界に変化が生じる公算が高まる。

 LGBTQIA+は、より多くの暴力や差別に直面するかもしれない。ウクライナ問題に関して言えば、懸念されるのは、ロシアとの戦争は「民主主義を守る戦いである」という意識が、米国民の間で一気に薄れることだ。2人の候補の影響力は決して小さくない。

   
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